夜の淵に咲く
名前変換
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弟子をとるのも、誰かを屋敷に住まわすのも、不死川にとっては苦であった。
そして半ば流されるように弟子を受け入れてしまって早くも一月が経った。
結論から言うとこの名前という少女は不死川の予想以上に鍛え甲斐があった。
正直なところそのうち鍛錬自体に嫌気がさすか、別の方法で里へ戻ることを考え出すだろうと思っていた。
この少女にとって鬼を狩ることは目的のついででしかないからだ。
例えそうであったとしても、
名前は地味でキツい鍛錬を文句も言わず取り組み、一般隊士の誰もが恐れる不死川相手に物怖じせず手合わせもボロボロになるまで挑んだ。もともと過酷な訓練を積んできているのだろう。身体能力も精神力も申し分なかった。初めは扱いにくそうにしていた日輪刀もかなり様になってきた。
知識欲もあり剣技や呼吸、鬼についても学ぼうとした。
そして1日の終わりには死んだように眠っていた。たまに布団まで辿り着けずに手前で行き倒れているのを不死川は見かけた。あの無表情で隙のない少女が意外な一面もあるもんだと少し笑ってしまった。
そして不死川が任務から帰ってきた早朝には必ず起きていて、湯を沸かし朝餉の支度を済ませていた。
初めはそんなこといいから寝てろ、と言っていたがこういうところは義理堅いというか頑固というか頑なに辞めなかった。…なので師である彼はもう好きにやらせることにしていた。
そんな生活もお互い少しずつ慣れてきた頃であった。
「おらァ!また隙ができてんぞォ!何度言ったらわかんだ!」
名前の木刀は甲高い音がするのと同時に宙に投げ出された。払われた木刀が地面に落ちる前に、そのか細い喉元には木刀の切先が添えられた。
名前の動きを封じた不死川はため息をついた。
「なめてんのか。刀から手を離した瞬間死んだと思え」
「も、申し訳ありません…もう一度お願いしますっ」
「いや、少し休め」
「では水と手拭いをお持ちします」
名前は厨の方へ走っていった。
名前は手合わせの際、時々変なところで相手との距離をとってしまったり、刀から片手を離してしまうことがあった。
「やっぱり今までの戦い方が染みついてんのかねェ…」
忍時代の彼女は一体どんな戦い方をしていたのか…想像しながらそんな独り言を言っていると厨から名前が戻ってきた。
縁側に水で濡らした手拭いと水差しを持ってきて置いた。
不死川は縁側に腰掛ける。
「お前、忍里にいる時はどんな武器を使ってたァ?」
先程の疑問は本人に聞けば直ぐにわかることだと、不死川は単刀直入に聞いた。
名前は師が何故このような質問をしたのか意図がすぐにわかり、眉尻を下げた。
「すみません師範。以前の戦い方の癖が抜け切っていなくて…私の一番の武器はこれです」
そういうと腰につけている動物の皮で作られた小さな鞄のようなものに触れた。これは元々名前が持っていたものだった。裁縫係に名前が直接頼んで改造してもらい、帯革に通せるようにして常に持ち歩いていた。彼女はその中から緑色の巻物を取り出した。
「この中には人に似せて作った傀儡が入っていて、指先から出したチャクラ糸で操って敵と戦うのです」
不死川はいつかのように怪訝な顔をした。
なんとも妖の術のような話だ。
しかし不死川も名前がそういった類のものではないのはもう理解している。
「師範は…私の話全てを信じてくだっさって、ここに置いてくださるんですか?」
いつの間にか不死川に視線を向けていた名前が静かな声で問いかけた。
その表情からは感情が読めない。
以前はどこかの昏い目をした同い年の柱を思い出して憂鬱になったこともあったが。
しかし最近は…この目からは何か強い感情を感じる。
「…正直な話、全部は信じられねェ。
が、お前が里に帰るために…誰かのために必死なのはわかる」
それは本当だった。
あのとき、倒れる名前の肩を支えたときに、その誰かの名前を聞いていたから。
きっとその誰かが彼女をここまで必死にさせる理由なのだろうと、不死川には不思議と確信があった。
名は何と言っただろうか、聞きなれない珍しい名であったことは覚えていた。
「さそ、り…?」
「‼︎」
気付けばそのうろ覚えだった名前を呟いていた。
その瞬間、名前の瞳が揺れた。
不死川は驚いた。
今まで無表情を貫いてきた忍の動揺している顔を見て、何か自分は不味い事を言ってしまったのだろうかと心配になったほどだった。
「どうして…」
何故その名を知っているのかと、そう聞かれているのだと気づくのに少し時間がかかった。
「…お前が倒れる時、そう言ってた」
「ーーそうでしたか…」
名前は不死川の返答を聞くと俯き、巻物を握りしめた。
表情は見えなかったが、不死川は彼女の中で激しく渦巻く感情を垣間見たような気がした。
焦燥、不安、悲嘆…血の滲むような鍛錬に狂気すら感じるほど身を捧げるのは、それらを振り払うのに必死になっていたのだと気づく。
しかし今度は肩も支えてはやれない。
声もかけてやれそうにない。
そんなことでは救えないのを不死川は分かっていた。
半端な優しさでさえ、今にもこの少女を壊してしまうだろうと。
そして半ば流されるように弟子を受け入れてしまって早くも一月が経った。
結論から言うとこの名前という少女は不死川の予想以上に鍛え甲斐があった。
正直なところそのうち鍛錬自体に嫌気がさすか、別の方法で里へ戻ることを考え出すだろうと思っていた。
この少女にとって鬼を狩ることは目的のついででしかないからだ。
例えそうであったとしても、
名前は地味でキツい鍛錬を文句も言わず取り組み、一般隊士の誰もが恐れる不死川相手に物怖じせず手合わせもボロボロになるまで挑んだ。もともと過酷な訓練を積んできているのだろう。身体能力も精神力も申し分なかった。初めは扱いにくそうにしていた日輪刀もかなり様になってきた。
知識欲もあり剣技や呼吸、鬼についても学ぼうとした。
そして1日の終わりには死んだように眠っていた。たまに布団まで辿り着けずに手前で行き倒れているのを不死川は見かけた。あの無表情で隙のない少女が意外な一面もあるもんだと少し笑ってしまった。
そして不死川が任務から帰ってきた早朝には必ず起きていて、湯を沸かし朝餉の支度を済ませていた。
初めはそんなこといいから寝てろ、と言っていたがこういうところは義理堅いというか頑固というか頑なに辞めなかった。…なので師である彼はもう好きにやらせることにしていた。
そんな生活もお互い少しずつ慣れてきた頃であった。
「おらァ!また隙ができてんぞォ!何度言ったらわかんだ!」
名前の木刀は甲高い音がするのと同時に宙に投げ出された。払われた木刀が地面に落ちる前に、そのか細い喉元には木刀の切先が添えられた。
名前の動きを封じた不死川はため息をついた。
「なめてんのか。刀から手を離した瞬間死んだと思え」
「も、申し訳ありません…もう一度お願いしますっ」
「いや、少し休め」
「では水と手拭いをお持ちします」
名前は厨の方へ走っていった。
名前は手合わせの際、時々変なところで相手との距離をとってしまったり、刀から片手を離してしまうことがあった。
「やっぱり今までの戦い方が染みついてんのかねェ…」
忍時代の彼女は一体どんな戦い方をしていたのか…想像しながらそんな独り言を言っていると厨から名前が戻ってきた。
縁側に水で濡らした手拭いと水差しを持ってきて置いた。
不死川は縁側に腰掛ける。
「お前、忍里にいる時はどんな武器を使ってたァ?」
先程の疑問は本人に聞けば直ぐにわかることだと、不死川は単刀直入に聞いた。
名前は師が何故このような質問をしたのか意図がすぐにわかり、眉尻を下げた。
「すみません師範。以前の戦い方の癖が抜け切っていなくて…私の一番の武器はこれです」
そういうと腰につけている動物の皮で作られた小さな鞄のようなものに触れた。これは元々名前が持っていたものだった。裁縫係に名前が直接頼んで改造してもらい、帯革に通せるようにして常に持ち歩いていた。彼女はその中から緑色の巻物を取り出した。
「この中には人に似せて作った傀儡が入っていて、指先から出したチャクラ糸で操って敵と戦うのです」
不死川はいつかのように怪訝な顔をした。
なんとも妖の術のような話だ。
しかし不死川も名前がそういった類のものではないのはもう理解している。
「師範は…私の話全てを信じてくだっさって、ここに置いてくださるんですか?」
いつの間にか不死川に視線を向けていた名前が静かな声で問いかけた。
その表情からは感情が読めない。
以前はどこかの昏い目をした同い年の柱を思い出して憂鬱になったこともあったが。
しかし最近は…この目からは何か強い感情を感じる。
「…正直な話、全部は信じられねェ。
が、お前が里に帰るために…誰かのために必死なのはわかる」
それは本当だった。
あのとき、倒れる名前の肩を支えたときに、その誰かの名前を聞いていたから。
きっとその誰かが彼女をここまで必死にさせる理由なのだろうと、不死川には不思議と確信があった。
名は何と言っただろうか、聞きなれない珍しい名であったことは覚えていた。
「さそ、り…?」
「‼︎」
気付けばそのうろ覚えだった名前を呟いていた。
その瞬間、名前の瞳が揺れた。
不死川は驚いた。
今まで無表情を貫いてきた忍の動揺している顔を見て、何か自分は不味い事を言ってしまったのだろうかと心配になったほどだった。
「どうして…」
何故その名を知っているのかと、そう聞かれているのだと気づくのに少し時間がかかった。
「…お前が倒れる時、そう言ってた」
「ーーそうでしたか…」
名前は不死川の返答を聞くと俯き、巻物を握りしめた。
表情は見えなかったが、不死川は彼女の中で激しく渦巻く感情を垣間見たような気がした。
焦燥、不安、悲嘆…血の滲むような鍛錬に狂気すら感じるほど身を捧げるのは、それらを振り払うのに必死になっていたのだと気づく。
しかし今度は肩も支えてはやれない。
声もかけてやれそうにない。
そんなことでは救えないのを不死川は分かっていた。
半端な優しさでさえ、今にもこの少女を壊してしまうだろうと。