夜の淵に咲く
名前変換
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不死川が産屋敷邸を訪ねたあの日から2日が経った。
担当地区の巡回を終え、早朝に帰宅をした。
この日をもってここ風柱邸に例の弟子が来ることになっている。
不本意ではあるが。
不死川は弟子なんていたこともなければ今後もとるつもりはなかった。しかも女子となるとどうも苦手だった。これは決して女性を見下げているわけではない。
不死川は元来女、子供、高齢の者には優しい男だ。
しかし鬼殺の道を極めんと我武者羅に鬼の首を切ることだけを考えてきたのだ。稽古をつけてやるとなると加減がなくなってしまうことを心配した。一方で鬼狩りの道に身を置くならその程度のことは当然の試練だとも思っている。
しかし実際柱稽古でもその厳しさについてこれる者は男でもなかなかいなかった。
「失礼致します」
玄関の方から声がした。
あぁ、ついにきてしまったか、もう腹を括るしかないと、不死川は諦めて出迎える。
「おはようございます。不死川様。本日よりお世話になります」
そこには件の少女「名前」が少し大きめの風呂敷を1つ持ち、先日着ていた着物ではなくあの忍服を着ていた。
「堅苦しいのはなしだァ。とっとと上がれ」
今にも土間で膝をついて挨拶しそうな名前を不死川は制して、視線で早く入るよう促した。
屋敷の部屋はいくらでも余っていた。割と日当たりの良い部屋を名前に当てがった。
「荷物置いたら庭に来い」
屋敷の案内もそこそこに、それだけ伝えると不死川は先に庭へと向かった。
言われた通り荷物を置いて、名前が庭に行くと刀を2本持って不死川が待っていた。
「お前の刀は鬼殺隊に正式に入隊した時に支給される。それまではこの刀を使え。俺の育手が昔使ってたもんだ」
両手でそれを受け取る。思った以上の重みが、ずっしりとその細い腕にかかった。
「とにかく、最終選別まであまり時間がねえ。今日からやるぞ」
「はい。不死川様。どうぞよろしくお願いします」
「…その“不死川様”ってのはやめろォ」
「…では“師範”と呼ばせていただきます」
不死川はまあそれでいいか、と本日の訓練内容を説明した。
「まずその刀で素振り1000回」
「わかりました。始めます」
随分と聞き分けがいいなと、不死川は思った。大抵の者はこんな単純な反復練習まず嫌がっていた。
名前は内心早く呼吸とやらを教えて欲しいと焦りはあったが、この刀を1日でも早く扱えるようになるためだと素直に取りかかった。
今まで使っていた武器とは重さ、刃長、相手との距離の取り方なども大きく変わってくる。
「構えと型はこうだ」
不死川も名前のその態度に悪い気はせず、一度手本を見せる。
名前は腰に日輪刀を差し、言われた通り構え、鞘から刀身を静かに引き抜いた。
上段で構え、振り下ろす。
やはり素人ではないからか、動きに無駄がない。
筋は悪くなさそうだ。
しばらくそれを繰り返させ、しばらくすると今度は別の構えを教える。
そして文句も言わず1つ1つの動作を集中して刀を振り続けた。不死川はただ黙ってそれを縁側に腰掛け見ていた。
やはり刀はあの細腕にはなかなか重いのだろう。
息も上がり、額と首筋には汗が流れ、先ほど見たときには手に血が滲み出していた。
それでも、名前は刀を振ることをやめなかった。不死川は何か手に巻いてやろうかと思ったが名前は自分で懐から出した手巾で掌を縛り、滑らないよう柄を握り込んだ。
鬼に直接恨みもないのだろう。何故そこまで必死になるのか。やはり里に残してきたという恋人のためなのだろうか。不死川は不思議でならなかった。
しかし、刀を振るその横顔は確かに強い意志を持った人間の横顔だった。
担当地区の巡回を終え、早朝に帰宅をした。
この日をもってここ風柱邸に例の弟子が来ることになっている。
不本意ではあるが。
不死川は弟子なんていたこともなければ今後もとるつもりはなかった。しかも女子となるとどうも苦手だった。これは決して女性を見下げているわけではない。
不死川は元来女、子供、高齢の者には優しい男だ。
しかし鬼殺の道を極めんと我武者羅に鬼の首を切ることだけを考えてきたのだ。稽古をつけてやるとなると加減がなくなってしまうことを心配した。一方で鬼狩りの道に身を置くならその程度のことは当然の試練だとも思っている。
しかし実際柱稽古でもその厳しさについてこれる者は男でもなかなかいなかった。
「失礼致します」
玄関の方から声がした。
あぁ、ついにきてしまったか、もう腹を括るしかないと、不死川は諦めて出迎える。
「おはようございます。不死川様。本日よりお世話になります」
そこには件の少女「名前」が少し大きめの風呂敷を1つ持ち、先日着ていた着物ではなくあの忍服を着ていた。
「堅苦しいのはなしだァ。とっとと上がれ」
今にも土間で膝をついて挨拶しそうな名前を不死川は制して、視線で早く入るよう促した。
屋敷の部屋はいくらでも余っていた。割と日当たりの良い部屋を名前に当てがった。
「荷物置いたら庭に来い」
屋敷の案内もそこそこに、それだけ伝えると不死川は先に庭へと向かった。
言われた通り荷物を置いて、名前が庭に行くと刀を2本持って不死川が待っていた。
「お前の刀は鬼殺隊に正式に入隊した時に支給される。それまではこの刀を使え。俺の育手が昔使ってたもんだ」
両手でそれを受け取る。思った以上の重みが、ずっしりとその細い腕にかかった。
「とにかく、最終選別まであまり時間がねえ。今日からやるぞ」
「はい。不死川様。どうぞよろしくお願いします」
「…その“不死川様”ってのはやめろォ」
「…では“師範”と呼ばせていただきます」
不死川はまあそれでいいか、と本日の訓練内容を説明した。
「まずその刀で素振り1000回」
「わかりました。始めます」
随分と聞き分けがいいなと、不死川は思った。大抵の者はこんな単純な反復練習まず嫌がっていた。
名前は内心早く呼吸とやらを教えて欲しいと焦りはあったが、この刀を1日でも早く扱えるようになるためだと素直に取りかかった。
今まで使っていた武器とは重さ、刃長、相手との距離の取り方なども大きく変わってくる。
「構えと型はこうだ」
不死川も名前のその態度に悪い気はせず、一度手本を見せる。
名前は腰に日輪刀を差し、言われた通り構え、鞘から刀身を静かに引き抜いた。
上段で構え、振り下ろす。
やはり素人ではないからか、動きに無駄がない。
筋は悪くなさそうだ。
しばらくそれを繰り返させ、しばらくすると今度は別の構えを教える。
そして文句も言わず1つ1つの動作を集中して刀を振り続けた。不死川はただ黙ってそれを縁側に腰掛け見ていた。
やはり刀はあの細腕にはなかなか重いのだろう。
息も上がり、額と首筋には汗が流れ、先ほど見たときには手に血が滲み出していた。
それでも、名前は刀を振ることをやめなかった。不死川は何か手に巻いてやろうかと思ったが名前は自分で懐から出した手巾で掌を縛り、滑らないよう柄を握り込んだ。
鬼に直接恨みもないのだろう。何故そこまで必死になるのか。やはり里に残してきたという恋人のためなのだろうか。不死川は不思議でならなかった。
しかし、刀を振るその横顔は確かに強い意志を持った人間の横顔だった。