夜の淵に咲く
名前変換
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「…お、お館様、今何と」
「お茶をどうぞ」
「あ、あぁ?」
名前と名乗った少女は、運んできていたお茶を座卓にあげた。にこやかなお館様と、動揺する俺の前にさらにお茶請けのおはぎを出す。
ってえ!今は茶どころじゃねェ!
この得体の知れない小娘が鬼殺隊に入るだとォ!?
「お館様!失礼ですが訳をお聞かせください!何故そのような…!?」
少女は相変わらず無表情でそこに大人しく座ってことの成り行きを眺めていた。
「そうだね、実弥にはここに名前を連れてきてもらったんだから知る権利はあると思う。…どうだろう名前。彼にも話してみないかい?」
はい、と娘はうなずいた。そしてお盆に載せていた巻物を開いて見せた。
「不死川様…今から話すことは、信じていただかなくても構いません。ですが私が敵でないということだけはどうか信じてください」
真っ直ぐな瞳がこちらを見据える。
俺は一体今から何を聞かせるのか。聞いたら後に戻れないような…妙な不安がのしかかる。
しかし日輪刀もなく鬼を滅したこの少女が果たして何者なのか、興味はあった。俺は大人しく話を聞くことにした。
少女は淡々と話した。
この世界の者ではない事、里には捨てられたこと、恋人を置いてきてしまったこと。そしてその巻物に、…あ?よくわからねぇ…茶蔵?だか茶虎だとかよくわからねえもんを貯めていかないといけないとか。
鬼と戦った際にその茶虎がより多く吸い込まれたのを感じたんだとか。なんとか…
「…」
「…」
しばし
お互い無言になった。
お館様だけが終始穏やかな顔をされていた。
おいおいおい。
お館様はこの話を信じたわけじゃねェよな?
哀れんで調子を合わせてるのか?
っあー、ダメだわからねェ。
もうそんな戯言に付き合ってられないとここから出て行ってしまいたいが、お館様の手前それも出来ない。
「不死川様」
紫水晶と目が合う。
「鬼殺隊に入ること、どうかお許しいただけないでしょうか。私が万が一、組織にとって危険な因子となり得ると思った時、全く役に立たないと思われた際は…
その時は、この首を撥ねてください」
真っ直ぐにこちらを見てくる。
意味がわからねぇ。
斬首されても構わねェだと?余程の自信があるのか馬鹿なのか…。
それにしてもなんでそんな事…こんな綺麗ェな目で言う。
「…好きにしろ、そもそも俺に決定権はねェ。お館様のご意向なら俺はそれに従うまでだァ」
「そうか!実弥がそう言ってくれて安心したよ」
それまで黙って聞いていたお館様が突然満面の笑みで、よかったね、と娘に笑いかけた。
「不死川様、ありがとうございます」
お館様に頷き返した少女は再び俺と視線を合わせると頭を下げた。
もちろん全てを信じたわけではない。が、日輪刀を持たず無傷で朝日が昇るまで鬼を拘束できていた事実。俺を一度でも撒いた事実。能力は申し分ないだろう。
「彼女には規定通り次の選別に参加してもらうよ。それまでに、呼吸を習得しないとね」
次の、とは急な話だが。まぁこいつにとっては藤襲山の選別は大した問題ではないだろう。あの程度の鬼共なら呼吸が使えなくても何とかできそうだ。
「名前の師に、私は実弥が適任だと思うんだが、どうだろう?」
俺は頂いていた茶を吹きそうになった。
「っ!お館様?!」
今日のお館様には驚かされてばかりだ。
「細かい事情を知っているのは私と実弥だけだからね。他の子供達にも事情を説明しても良いが、やはりみんな最初は混乱するだろうからね。名前には里抜けしてきた忍ということだけ話そうと思うんだ。全てを話す必要もないだろう?」
もちろんだ。こんな奇天烈な話し。
他の隊士にわざわざ説明するつもりは毛頭なかった。
「でもできれば事情を知っている者の方が何かと名前も安心だろう。名前はいい子だし、君も良い経験になると思うんだ」
娘もすっかりその気になっているのか美しい姿勢からさらに背筋を伸ばして力のある眼差しでこちらを見ていた。
…勘弁してくれ。
先程お館様のご意向に従うと自分で言ってしまった手前、頭ごなしに断ることができなかった。
「しかし、この娘に風の呼吸が合うかどうか…。俺より継子を欲しがっている他の柱の方が良いのでは…」
そこで小娘がここぞとばかりに初めて少し大きな声で話し出した。
「不死川様っ、私は忍術では風遁の術が一番得意でした。どうか一度御教授いただけないでしょうか!どんな修行にも耐えて見せます!」
余計な事言うんじゃねェ‼︎忍術と何の関係がある?!
「わぁ!すごいじゃないか!きっと風の呼吸とも相性が良いよ。もしどうしても合わないようなら他の柱の子たちや育手の人達にも相談してみるから、どうだい実弥?」
口を挟む魔を与えず紡がれた御館様の言葉に、
俺の最後の言い訳も呆気なく散った。
その後は何だか流されるまま行き着くままで、お館様のところで必要な物を揃えたら俺の屋敷にあの娘がひとまず弟子としてくるそうだ。
俺は自分の屋敷に若い女1人住ませなくてはならないことや、そいつの得体が未だによくわかっていないことなど、言いたいことは色々あったがもう振り回され切った脳髄では何も考えられなかった。
おはぎだけは残さずいただいた。
これは、礼儀だ。
「お茶をどうぞ」
「あ、あぁ?」
名前と名乗った少女は、運んできていたお茶を座卓にあげた。にこやかなお館様と、動揺する俺の前にさらにお茶請けのおはぎを出す。
ってえ!今は茶どころじゃねェ!
この得体の知れない小娘が鬼殺隊に入るだとォ!?
「お館様!失礼ですが訳をお聞かせください!何故そのような…!?」
少女は相変わらず無表情でそこに大人しく座ってことの成り行きを眺めていた。
「そうだね、実弥にはここに名前を連れてきてもらったんだから知る権利はあると思う。…どうだろう名前。彼にも話してみないかい?」
はい、と娘はうなずいた。そしてお盆に載せていた巻物を開いて見せた。
「不死川様…今から話すことは、信じていただかなくても構いません。ですが私が敵でないということだけはどうか信じてください」
真っ直ぐな瞳がこちらを見据える。
俺は一体今から何を聞かせるのか。聞いたら後に戻れないような…妙な不安がのしかかる。
しかし日輪刀もなく鬼を滅したこの少女が果たして何者なのか、興味はあった。俺は大人しく話を聞くことにした。
少女は淡々と話した。
この世界の者ではない事、里には捨てられたこと、恋人を置いてきてしまったこと。そしてその巻物に、…あ?よくわからねぇ…茶蔵?だか茶虎だとかよくわからねえもんを貯めていかないといけないとか。
鬼と戦った際にその茶虎がより多く吸い込まれたのを感じたんだとか。なんとか…
「…」
「…」
しばし
お互い無言になった。
お館様だけが終始穏やかな顔をされていた。
おいおいおい。
お館様はこの話を信じたわけじゃねェよな?
哀れんで調子を合わせてるのか?
っあー、ダメだわからねェ。
もうそんな戯言に付き合ってられないとここから出て行ってしまいたいが、お館様の手前それも出来ない。
「不死川様」
紫水晶と目が合う。
「鬼殺隊に入ること、どうかお許しいただけないでしょうか。私が万が一、組織にとって危険な因子となり得ると思った時、全く役に立たないと思われた際は…
その時は、この首を撥ねてください」
真っ直ぐにこちらを見てくる。
意味がわからねぇ。
斬首されても構わねェだと?余程の自信があるのか馬鹿なのか…。
それにしてもなんでそんな事…こんな綺麗ェな目で言う。
「…好きにしろ、そもそも俺に決定権はねェ。お館様のご意向なら俺はそれに従うまでだァ」
「そうか!実弥がそう言ってくれて安心したよ」
それまで黙って聞いていたお館様が突然満面の笑みで、よかったね、と娘に笑いかけた。
「不死川様、ありがとうございます」
お館様に頷き返した少女は再び俺と視線を合わせると頭を下げた。
もちろん全てを信じたわけではない。が、日輪刀を持たず無傷で朝日が昇るまで鬼を拘束できていた事実。俺を一度でも撒いた事実。能力は申し分ないだろう。
「彼女には規定通り次の選別に参加してもらうよ。それまでに、呼吸を習得しないとね」
次の、とは急な話だが。まぁこいつにとっては藤襲山の選別は大した問題ではないだろう。あの程度の鬼共なら呼吸が使えなくても何とかできそうだ。
「名前の師に、私は実弥が適任だと思うんだが、どうだろう?」
俺は頂いていた茶を吹きそうになった。
「っ!お館様?!」
今日のお館様には驚かされてばかりだ。
「細かい事情を知っているのは私と実弥だけだからね。他の子供達にも事情を説明しても良いが、やはりみんな最初は混乱するだろうからね。名前には里抜けしてきた忍ということだけ話そうと思うんだ。全てを話す必要もないだろう?」
もちろんだ。こんな奇天烈な話し。
他の隊士にわざわざ説明するつもりは毛頭なかった。
「でもできれば事情を知っている者の方が何かと名前も安心だろう。名前はいい子だし、君も良い経験になると思うんだ」
娘もすっかりその気になっているのか美しい姿勢からさらに背筋を伸ばして力のある眼差しでこちらを見ていた。
…勘弁してくれ。
先程お館様のご意向に従うと自分で言ってしまった手前、頭ごなしに断ることができなかった。
「しかし、この娘に風の呼吸が合うかどうか…。俺より継子を欲しがっている他の柱の方が良いのでは…」
そこで小娘がここぞとばかりに初めて少し大きな声で話し出した。
「不死川様っ、私は忍術では風遁の術が一番得意でした。どうか一度御教授いただけないでしょうか!どんな修行にも耐えて見せます!」
余計な事言うんじゃねェ‼︎忍術と何の関係がある?!
「わぁ!すごいじゃないか!きっと風の呼吸とも相性が良いよ。もしどうしても合わないようなら他の柱の子たちや育手の人達にも相談してみるから、どうだい実弥?」
口を挟む魔を与えず紡がれた御館様の言葉に、
俺の最後の言い訳も呆気なく散った。
その後は何だか流されるまま行き着くままで、お館様のところで必要な物を揃えたら俺の屋敷にあの娘がひとまず弟子としてくるそうだ。
俺は自分の屋敷に若い女1人住ませなくてはならないことや、そいつの得体が未だによくわかっていないことなど、言いたいことは色々あったがもう振り回され切った脳髄では何も考えられなかった。
おはぎだけは残さずいただいた。
これは、礼儀だ。