夜の淵に咲く
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麓の人里にたどり着いた。
川にかかる橋の先には木造の長屋が立ち並んで人の姿も見える。
木陰からその様子を用心深く観察する。
ひとまず人里があったことに安心した。
だが、文化の違いだろうか。
そこにはずいぶんと服装や建物の雰囲気なんかが風の国とは異なった風景が広がっていた。
それはいつか任務で赴いたどの里とも違った。ひとまず、この忍び装束では目立ってしまうだろう。首にかけていた額当てを隠す。
変化の術も使えないから、この里で衣服を手に入れてそれから…と、この後の行動を考えている時だった。
「わっ!」
「手を焼かせるんじゃねェ、ったく」
突然後ろから羽交い締めにされ、その体は持ち上げられた。両脚は地面から離れ、思わずバタつかせて抵抗する。
後ろを振り返らなくてもこの声は先ほどの白髪の男であることはわかった。
油断していた。
今度は気配を完全に断たれ気づかなかった。しかも追いつかれたことに動揺を隠せない。
この状況、この体格差。振り解こうとしたが力も自分よりあるようだ。
抵抗をやめて大人しく羽交い締めになったまま尋ねる。
「よく追いつけましたね」
「…街の方に行くんじゃねぇかと思ったから先回りしたんだよ」
まさか鬼狩り以外でこんな全力で走らされるとは思わなかったと、男は乱れた呼吸をすぐに整えた。
忍じゃないのにこの身体能力はいったい何なのだろうか。
「なんで突然逃げたァ?やっぱり何か隠してんのか」
発言からは自分に対する警戒心が伝わってくるが、殺気は感じられない。
するとまた、先程の鴉が飛んできて、頭上を旋回しながら叫んだ。
「カァァァ!オ館様ヨリ伝言ーー!ソノ娘ヲ産屋敷邸マデ連レテ参ラレヨー!」
「‼︎」
男は驚いていた。しかし今度は隙を見せることはなかった。
「あぁ?!なんでお館様が?!こんな怪しい奴連れてってどうする気だァ?!」
私は事の展開にもう何だか疲れてきていて、動かなかった。
「知ランー!タダシ!紳士的に!丁重にオ連レシロー!トノコト!」
「んなことできるかァ!」
しばらく男と鴉が言い争っていた。
何故鴉が話せるの?彼の口寄せ獣だろうか?私は他人事のように別のことを考えていた。
しばらくすると言い争いは終わり、後ろの男が項垂れるのが気配で分かった。
「おい」
「は、はい」
「とにかくそっちにも言いてェことはあるだろうが、まずはこっちの話を聞けェ。そんでもう面倒くせェから大人しくついて来い」
「…」
どうやら鴉の説得が勝利したようだ。
私はひとまず離してもらうためおとなしく話を聞くことにした。今争って変に目立つのは避けたほうがいいだろう。それにこの男と行動を共にしていれば街中の移動は問題ないだろうと考えた。
△
穏やかな朝日が照らす町中を2人で歩いていく。
やはり目立つのか道ゆく人からはチラチラと視線を感じる。
さっきまで風の国にいたのに空間移動し、右も左も分からない状態からの鬼の出現、戦闘、そしてその鬼を切る男との遭遇。
そして何故か自分は今から何処かに連れて行かれるらしい。
とにかく目まぐるしく変化する状況に、この穏やかな朝は何だか現実味がわかなかった。
しばらく無言だった男が口を開いた。
「お前ェ、名前は?」
「…立場上、名は申せません。…申し訳ございません」
「…」
男はそれに対してとくに非難することはなかった。
「…俺は鬼を討伐するための組織にいる。お前がさっき焼いた奴が鬼だ。鬼は人を喰らう」
男は自身の情報と鬼について、鬼狩りを生業とする組織『鬼殺隊』について簡単に説明した。彼らは鬼の首を切るために常人では考えられないような身体機能を身につけていると。
私からすれば忍ではないチャクラを使えぬ人が、あんな異形の化物と対峙するという事にとても驚いた。
しかし何故その組織のトップのところに、自分は連れて行かれるような事になっているのか…
「あの、なんで私はその…当主の方のところに?」
「それは俺にもわからねェが、確かにお前には俺も色々聞きたい。お前が本当に敵じゃねぇのか、なんの目的で忍里から出てきてんのかとかなァ」
「……」
この後どうせ根掘り葉掘り聞かれるのだろう。
そう思い、答えらしい答えを持たない私はただ黙って男の横を歩く。
そこからは特に会話らしい会話もなくただ目的地に向かって歩いていった。
通り過ぎていく街の名は、聞いたこともなかった。
男が途中腹が減ったと言って握り飯を店で買っていたが、その時支払われたのは見たことのない貨幣だった。
そして鬼の存在…私はそれまで、薄らと感じていた不安、予想が徐々に脳内を支配していくのを感じていた。
国が違うだけでは説明できない数々の事象を前に嫌な予感がしていた。
そしてそれが杞憂であってほしいという願いは、時間を追うごとに確信へと変わっていった。
次元すら違う世界に来たのだ。
「おい、お前ェ。何か顔色悪くねェか」
「…いえ、問題ありません」
「…そうかよォ」
本当は返事をするだけで精一杯だった。
酷く恐ろしかった。
焦燥と不安に気管支が細くなり息苦しい。
あの術は異次元にまで空間を歪めてしまった。
ここは自分のいた次元の世界ではない。
ここには五大国はおろか、風の国も、サソリも…いない。
全て夢であってほしい。
早く目を覚ましたい。
夕日と同じ色をした赤い髪を思い出す。
それと同時に視界が真っ赤になった。
「…っおい!」
誰かの声がする。
「…サソ、…」
誰かが肩を支えてくれた気がした。
川にかかる橋の先には木造の長屋が立ち並んで人の姿も見える。
木陰からその様子を用心深く観察する。
ひとまず人里があったことに安心した。
だが、文化の違いだろうか。
そこにはずいぶんと服装や建物の雰囲気なんかが風の国とは異なった風景が広がっていた。
それはいつか任務で赴いたどの里とも違った。ひとまず、この忍び装束では目立ってしまうだろう。首にかけていた額当てを隠す。
変化の術も使えないから、この里で衣服を手に入れてそれから…と、この後の行動を考えている時だった。
「わっ!」
「手を焼かせるんじゃねェ、ったく」
突然後ろから羽交い締めにされ、その体は持ち上げられた。両脚は地面から離れ、思わずバタつかせて抵抗する。
後ろを振り返らなくてもこの声は先ほどの白髪の男であることはわかった。
油断していた。
今度は気配を完全に断たれ気づかなかった。しかも追いつかれたことに動揺を隠せない。
この状況、この体格差。振り解こうとしたが力も自分よりあるようだ。
抵抗をやめて大人しく羽交い締めになったまま尋ねる。
「よく追いつけましたね」
「…街の方に行くんじゃねぇかと思ったから先回りしたんだよ」
まさか鬼狩り以外でこんな全力で走らされるとは思わなかったと、男は乱れた呼吸をすぐに整えた。
忍じゃないのにこの身体能力はいったい何なのだろうか。
「なんで突然逃げたァ?やっぱり何か隠してんのか」
発言からは自分に対する警戒心が伝わってくるが、殺気は感じられない。
するとまた、先程の鴉が飛んできて、頭上を旋回しながら叫んだ。
「カァァァ!オ館様ヨリ伝言ーー!ソノ娘ヲ産屋敷邸マデ連レテ参ラレヨー!」
「‼︎」
男は驚いていた。しかし今度は隙を見せることはなかった。
「あぁ?!なんでお館様が?!こんな怪しい奴連れてってどうする気だァ?!」
私は事の展開にもう何だか疲れてきていて、動かなかった。
「知ランー!タダシ!紳士的に!丁重にオ連レシロー!トノコト!」
「んなことできるかァ!」
しばらく男と鴉が言い争っていた。
何故鴉が話せるの?彼の口寄せ獣だろうか?私は他人事のように別のことを考えていた。
しばらくすると言い争いは終わり、後ろの男が項垂れるのが気配で分かった。
「おい」
「は、はい」
「とにかくそっちにも言いてェことはあるだろうが、まずはこっちの話を聞けェ。そんでもう面倒くせェから大人しくついて来い」
「…」
どうやら鴉の説得が勝利したようだ。
私はひとまず離してもらうためおとなしく話を聞くことにした。今争って変に目立つのは避けたほうがいいだろう。それにこの男と行動を共にしていれば街中の移動は問題ないだろうと考えた。
△
穏やかな朝日が照らす町中を2人で歩いていく。
やはり目立つのか道ゆく人からはチラチラと視線を感じる。
さっきまで風の国にいたのに空間移動し、右も左も分からない状態からの鬼の出現、戦闘、そしてその鬼を切る男との遭遇。
そして何故か自分は今から何処かに連れて行かれるらしい。
とにかく目まぐるしく変化する状況に、この穏やかな朝は何だか現実味がわかなかった。
しばらく無言だった男が口を開いた。
「お前ェ、名前は?」
「…立場上、名は申せません。…申し訳ございません」
「…」
男はそれに対してとくに非難することはなかった。
「…俺は鬼を討伐するための組織にいる。お前がさっき焼いた奴が鬼だ。鬼は人を喰らう」
男は自身の情報と鬼について、鬼狩りを生業とする組織『鬼殺隊』について簡単に説明した。彼らは鬼の首を切るために常人では考えられないような身体機能を身につけていると。
私からすれば忍ではないチャクラを使えぬ人が、あんな異形の化物と対峙するという事にとても驚いた。
しかし何故その組織のトップのところに、自分は連れて行かれるような事になっているのか…
「あの、なんで私はその…当主の方のところに?」
「それは俺にもわからねェが、確かにお前には俺も色々聞きたい。お前が本当に敵じゃねぇのか、なんの目的で忍里から出てきてんのかとかなァ」
「……」
この後どうせ根掘り葉掘り聞かれるのだろう。
そう思い、答えらしい答えを持たない私はただ黙って男の横を歩く。
そこからは特に会話らしい会話もなくただ目的地に向かって歩いていった。
通り過ぎていく街の名は、聞いたこともなかった。
男が途中腹が減ったと言って握り飯を店で買っていたが、その時支払われたのは見たことのない貨幣だった。
そして鬼の存在…私はそれまで、薄らと感じていた不安、予想が徐々に脳内を支配していくのを感じていた。
国が違うだけでは説明できない数々の事象を前に嫌な予感がしていた。
そしてそれが杞憂であってほしいという願いは、時間を追うごとに確信へと変わっていった。
次元すら違う世界に来たのだ。
「おい、お前ェ。何か顔色悪くねェか」
「…いえ、問題ありません」
「…そうかよォ」
本当は返事をするだけで精一杯だった。
酷く恐ろしかった。
焦燥と不安に気管支が細くなり息苦しい。
あの術は異次元にまで空間を歪めてしまった。
ここは自分のいた次元の世界ではない。
ここには五大国はおろか、風の国も、サソリも…いない。
全て夢であってほしい。
早く目を覚ましたい。
夕日と同じ色をした赤い髪を思い出す。
それと同時に視界が真っ赤になった。
「…っおい!」
誰かの声がする。
「…サソ、…」
誰かが肩を支えてくれた気がした。