夜の淵に咲く
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煌々と輝く月。
その月が照らす世界に目をやる。
見慣れた砂漠は夢でも見ていたのかと思うほど眼前から消えてしまっていた。
どうやら月隠れの時空間移動の術は成功したようだった。
この術を使うのは名前にとって賭けだった。失敗して時空の狭間に置き去りにされ永遠を彷徨うこともあったかもしれない。
辺りをぐるりと見回した。こんな豊かな森があるなら、ここは少なくとも砂隠れの里ではないだろうと考えた。
問題はここは“自分の知る世界”なのかということであった。
月影はこの術で“楽園”へと導かれると信じていた。
しかしここは想像するような楽園には見えなかった。至って普通の森の中に見える。
そして辺りは自分以外の気配は何も感じられなかった。
名前はその場に崩れるように座り込んだ。
「私…これで抜忍になってしまいましたね…」
それは常に追われる身となったこと、里には帰れないということ。
最愛の人に会えないということを意味していた。
一緒に里を抜けようと差し出された手を取ってしまいたかった。しかしそんな事をすれば自分だけではなく、サソリも追われる身となり、庇ってくれた部下やチヨがどんな目にあうかわからなかった。彼らはこれからの里になくてはならない存在だ。名前はそのことを誰よりも一番よくわかっていた。
だから、その手を取らずに巻物を握りしめた。
それに希望が全くないわけではなかった。サソリが宣言通り風影として里を治めてくれれば自分をきっと里に再び迎え入れてくれるであろうという希望があった。
実際、次期風影にはサソリの名を挙げるものが多かった。
ただ、それまで生きられるだろうかと不安が押し寄せる。
見知らぬ土地で、果たして抜忍が生きながらえることはできるのか。
考えはより一層深い淵に落ちる。
里抜けした忍の末路なんて陰惨なものであった。
でもこれでよかったんだ、と呟いた。
サソリが万が一にも追われる身となり、命を落とすようなことになればそれこそ自分は壊れてしまう。
最愛の人の顔を思い浮かべる。
そして必ず帰らねば、と自身を鼓舞した。
名前は立ち上がり、フラフラと森の中を歩き出した。
月明かりだけがそばにいてくれた。
△
歩きまわり、ここが山に囲まれた地帯だということがわかった。
あれから数時間移動しているが、人が往来しているような道もなく、ただ深い森と山特有の傾斜が続いている。本来なら人なんかが入り込める場所ではないが、忍びの自分には関係ない。木々や岩場、小さな足場を見つけては跳躍して移動していく。
移動している間にもこの最悪の状況に頭の中は支配されてその場に蹲りたくなる。だが甘えたことも言っていられない。わずかな希望だとしてもサソリに再び会える可能性を少しでも引き上げるためにすぐに行動しなくては。安全な場所を探さねば。
しかしもうかなり彷徨った。もうじき夜も明けるだろうか。
途中湧き水を見つけて口に含む。
ふと、何か気配を感じた。
まだ遠い。
熊か何かだろうか?
野生動物は自然の一部。邪魔をしないようその場を離れようとした。
だが。
「…何?」
その気配は一気にこちらにスピードを上げて近づいてきた。
それも異常なほど速かった。
ーーー動物じゃない!
だが、人の気配でもない。
一体なんだ、と若干乱れる思考で戦闘態勢に入る。
チャクラを練って風と書かれた巻物を取り出す。傀儡を口寄せしようとした時、そこでようやく気づいた。
「そんな…!チャクラが使えない?!」
これでは巻物から傀儡を取り出せない。
そうこうしている間にも気配は近づいている。
動揺している場合ではないと、仕方なくクナイをホルダーから取り出してかまえる。
気配はすぐそこまできている。
草木が擦れる音。足音。それらが静かな森の中で段々と大きくなってきた。
そして、
木々の間。
暗闇を揺らして現れたそれは、獣でも人でもない。
異形の怪物。
その姿に目を見開いた。
真っ先に目に入ったのはその異様に長く青い舌。長い赤黒い爪。
そして血色を失った青い顔色。頭部に生えた角。
すぐに攻撃に移るべきだったが初めて見るその異形の存在に動揺した。
「ゲヘハッッ!!こんな山奥になんで女?!美人だな!うまそう!うまそう!」
さらに驚いたことに、異形が自分の理解できる言葉を流暢に発した。しかもどうやらこちらを餌として見ているらしかった。
この状況から何かの幻術にかかっているのだろうかとも考えた。実際チャクラは練れるのに術が発動しないという摩訶不思議な状況に陥っている。
「ついてるなぁ〜。でもお前、なんか臭い、変。うまいのか?でも喰う」
涎を垂らし、長い爪でこちらを指差す。
ゾワリとした感覚とともに寒気が背中を走る。
と、同時にその異形の化物は地面を蹴り、勢いよく間合いを詰めてきた。
戸惑ってる暇はない。冷静にクナイを投げつける。
思いの外、クナイは呆気なくそいつの額に突き刺さる。
「ぐぁあ!」
しかし異形は短い悲鳴を上げたと同時に額のクナイを自分で抜いた。
「っなんだこれぇ?!ってぇじゃねぇかぁあ!」
死なない?
次は心臓か、首を跳ねるか。
異形は引き抜いたクナイを今度はこちらに目掛けて投げつける。まっすぐ飛ばずに弧を描いたクナイを難なく避け、さらに一瞬で間合いを詰めて腰に隠していた短刀で異形の胸めがけて刺した。
「がぁぁあ!」
ドサッ。
異形は叫び声を上げると膝から崩れ落ちた。
「…」
呆気ない。
初めは動揺したが、戦ってみれば動きは単純。スピードも忍の自分からしてみれば大したことはなかった。
しかし、何かまだ胸騒ぎのようなものがする。
短刀を引き抜き、その異形をもう一度よく見ようと上から覗き込んだその時であった。
それは勢いよく起き上がり、両手を伸ばしてきた。
「っどうなってるの?!」
咄嗟に伸びてきた両腕を短刀でなぎ払う。
ボトッボト!
切断された腕が嫌な音を立てて地面に落ちる。
「ッてめえ!よくもこんなに刻みやがって!お前ただの女じゃねえなー?!鬼狩りか?!」
流石にお手上げだった。
この生き物がわからない。
口寄せ獣か何かなのか、混乱する頭で必死で考える。
そして今鬼がどうとか言ったことに気づいた。
「お前は…鬼なの?」
切ったはずの腕からはもう出血すらしていない。
さて、どうしたものか。
再び短刀を構えた。
その月が照らす世界に目をやる。
見慣れた砂漠は夢でも見ていたのかと思うほど眼前から消えてしまっていた。
どうやら月隠れの時空間移動の術は成功したようだった。
この術を使うのは名前にとって賭けだった。失敗して時空の狭間に置き去りにされ永遠を彷徨うこともあったかもしれない。
辺りをぐるりと見回した。こんな豊かな森があるなら、ここは少なくとも砂隠れの里ではないだろうと考えた。
問題はここは“自分の知る世界”なのかということであった。
月影はこの術で“楽園”へと導かれると信じていた。
しかしここは想像するような楽園には見えなかった。至って普通の森の中に見える。
そして辺りは自分以外の気配は何も感じられなかった。
名前はその場に崩れるように座り込んだ。
「私…これで抜忍になってしまいましたね…」
それは常に追われる身となったこと、里には帰れないということ。
最愛の人に会えないということを意味していた。
一緒に里を抜けようと差し出された手を取ってしまいたかった。しかしそんな事をすれば自分だけではなく、サソリも追われる身となり、庇ってくれた部下やチヨがどんな目にあうかわからなかった。彼らはこれからの里になくてはならない存在だ。名前はそのことを誰よりも一番よくわかっていた。
だから、その手を取らずに巻物を握りしめた。
それに希望が全くないわけではなかった。サソリが宣言通り風影として里を治めてくれれば自分をきっと里に再び迎え入れてくれるであろうという希望があった。
実際、次期風影にはサソリの名を挙げるものが多かった。
ただ、それまで生きられるだろうかと不安が押し寄せる。
見知らぬ土地で、果たして抜忍が生きながらえることはできるのか。
考えはより一層深い淵に落ちる。
里抜けした忍の末路なんて陰惨なものであった。
でもこれでよかったんだ、と呟いた。
サソリが万が一にも追われる身となり、命を落とすようなことになればそれこそ自分は壊れてしまう。
最愛の人の顔を思い浮かべる。
そして必ず帰らねば、と自身を鼓舞した。
名前は立ち上がり、フラフラと森の中を歩き出した。
月明かりだけがそばにいてくれた。
△
歩きまわり、ここが山に囲まれた地帯だということがわかった。
あれから数時間移動しているが、人が往来しているような道もなく、ただ深い森と山特有の傾斜が続いている。本来なら人なんかが入り込める場所ではないが、忍びの自分には関係ない。木々や岩場、小さな足場を見つけては跳躍して移動していく。
移動している間にもこの最悪の状況に頭の中は支配されてその場に蹲りたくなる。だが甘えたことも言っていられない。わずかな希望だとしてもサソリに再び会える可能性を少しでも引き上げるためにすぐに行動しなくては。安全な場所を探さねば。
しかしもうかなり彷徨った。もうじき夜も明けるだろうか。
途中湧き水を見つけて口に含む。
ふと、何か気配を感じた。
まだ遠い。
熊か何かだろうか?
野生動物は自然の一部。邪魔をしないようその場を離れようとした。
だが。
「…何?」
その気配は一気にこちらにスピードを上げて近づいてきた。
それも異常なほど速かった。
ーーー動物じゃない!
だが、人の気配でもない。
一体なんだ、と若干乱れる思考で戦闘態勢に入る。
チャクラを練って風と書かれた巻物を取り出す。傀儡を口寄せしようとした時、そこでようやく気づいた。
「そんな…!チャクラが使えない?!」
これでは巻物から傀儡を取り出せない。
そうこうしている間にも気配は近づいている。
動揺している場合ではないと、仕方なくクナイをホルダーから取り出してかまえる。
気配はすぐそこまできている。
草木が擦れる音。足音。それらが静かな森の中で段々と大きくなってきた。
そして、
木々の間。
暗闇を揺らして現れたそれは、獣でも人でもない。
異形の怪物。
その姿に目を見開いた。
真っ先に目に入ったのはその異様に長く青い舌。長い赤黒い爪。
そして血色を失った青い顔色。頭部に生えた角。
すぐに攻撃に移るべきだったが初めて見るその異形の存在に動揺した。
「ゲヘハッッ!!こんな山奥になんで女?!美人だな!うまそう!うまそう!」
さらに驚いたことに、異形が自分の理解できる言葉を流暢に発した。しかもどうやらこちらを餌として見ているらしかった。
この状況から何かの幻術にかかっているのだろうかとも考えた。実際チャクラは練れるのに術が発動しないという摩訶不思議な状況に陥っている。
「ついてるなぁ〜。でもお前、なんか臭い、変。うまいのか?でも喰う」
涎を垂らし、長い爪でこちらを指差す。
ゾワリとした感覚とともに寒気が背中を走る。
と、同時にその異形の化物は地面を蹴り、勢いよく間合いを詰めてきた。
戸惑ってる暇はない。冷静にクナイを投げつける。
思いの外、クナイは呆気なくそいつの額に突き刺さる。
「ぐぁあ!」
しかし異形は短い悲鳴を上げたと同時に額のクナイを自分で抜いた。
「っなんだこれぇ?!ってぇじゃねぇかぁあ!」
死なない?
次は心臓か、首を跳ねるか。
異形は引き抜いたクナイを今度はこちらに目掛けて投げつける。まっすぐ飛ばずに弧を描いたクナイを難なく避け、さらに一瞬で間合いを詰めて腰に隠していた短刀で異形の胸めがけて刺した。
「がぁぁあ!」
ドサッ。
異形は叫び声を上げると膝から崩れ落ちた。
「…」
呆気ない。
初めは動揺したが、戦ってみれば動きは単純。スピードも忍の自分からしてみれば大したことはなかった。
しかし、何かまだ胸騒ぎのようなものがする。
短刀を引き抜き、その異形をもう一度よく見ようと上から覗き込んだその時であった。
それは勢いよく起き上がり、両手を伸ばしてきた。
「っどうなってるの?!」
咄嗟に伸びてきた両腕を短刀でなぎ払う。
ボトッボト!
切断された腕が嫌な音を立てて地面に落ちる。
「ッてめえ!よくもこんなに刻みやがって!お前ただの女じゃねえなー?!鬼狩りか?!」
流石にお手上げだった。
この生き物がわからない。
口寄せ獣か何かなのか、混乱する頭で必死で考える。
そして今鬼がどうとか言ったことに気づいた。
「お前は…鬼なの?」
切ったはずの腕からはもう出血すらしていない。
さて、どうしたものか。
再び短刀を構えた。