造花の傀儡
名前変換
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俺と名前はいつか来た城壁の上で夕日を見ていた。
名前は黙って沈んでいく夕日を見つめ、俺はその赤く染まった横顔を見ていた。
「キレイですね」
いつか聞いた台詞だった。
あの時はその美しい笑顔が儚くて、消えてしまうんじゃないかと怯えて名前を傷つけた。
今だってそうだ。
「あぁ…そうだな」
消えないと、お前だけは消えないと言ってくれと、そう名前に言いたくて堪らなかった。
でもそれが何になる。
この不条理に捻じ曲げられ、花は育たず、ふと下を見れば薄氷の上を歩かされていたことに気付くような世界で、何になる。
名前が任務に行く前に、伝えたかったことがあった。
幼い頃の約束を守るためだけではなく、それ以上を望んだ。
名前に対する想いは愛情。慕情。恋。愛しい。執着。どれも当てはまらない、だがどれも正しい気もした。
言葉になんかならなかった。
「サソリ…」
名前が心配そうな顔で俺の右腕に触れた。
わかるはずもない名前の体温がそこに咲いた気がした。
「本当に…ごめんなさい」
いつも美しく、儚さを孕んだ名前が本当に壊れてしまいそうな気がした。
切断された右腕は、今は傀儡の腕となった。
それを気に病んでいるのだろう。
「そんな顔するな。腕くらい…昔は本気で傀儡になろうとしていた」
「サソリの大切な体です」
「…俺は、そう思ってなかった。心も全て何もかも傀儡にしてしまいたかった」
名前の瞳が絶望の色に染まる。
あぁ、またお前を傷つけてしまった。
「違う。今はそんな風に思ってない」
昔言っただろ?花を贈られて、喜んでいるお前が好きだと…
「本当に傀儡になってしまったら花もくれてやれないだろ」
名前が目を見開いた。
「…名前が俺を人でいさせてくれるんだ」
ついにはその美しい顔は苦しそうに歪んだ。
でもそれは悲しいからじゃない。
「私も…サソリに会って、嬉しいとか、楽しいとかもっと一緒にいたいとか、一緒にいれない時は寂しいとか、辛いとか…そう言う気持ちを知ったのです。サソリだけなのです」
だからどうか笑ってくれ。
「サソリが私と同じ気持ちでいてくれたらどんなに良いかと…」
「同じだ。ずっと昔から…これからも」
俺たちにはもうそれで十分だった。
言葉は儚くこの砂塵に紛れてしまうだろう。
いつしか傀儡となる夢の形は変わった。
幼い頃は完璧な傀儡として崇拝した名前は誰よりも人間らしく、その命は永遠ではないと知った。
だからこそこんなにも愛しい。
俺たちの命などこの戦乱の世では一瞬の瞬きに過ぎないかもしれない。
だがそれでも、永遠という言葉の中で2人、生きていけたならそれはどれほど良いだろう。
作り物となった手で名前の手を握る。
名前は何も言わずにこちらを見て手を握り返した。
潤んだ紫水晶の瞳に淡く紅の光が刺す。
流れる血をいくら吸おうと、この砂の地は潤うことはない。
それがわかっていても、俺たちはこれからもその手を血で染めていく。
たとえ地獄に近づこうと…
「名前」
「はい、サソリ」
お前さえいればーー
「この手を離すな」
いつかこの終わらない夜すら2人で切り裂いてみせる。
またひとつ、またひとつと溢れる涙を眺めた。
いつかここで見た涙とは違う涙が流れるのを、止めようとは思わなかった。
「離しません。永遠に…」
ーー造花の少女は人の心を求め、人である少年は心を捨て傀儡になりたがった。
しかしもうその必要は無くなった。
花も育たぬ、生きることを許さない砂の地で。
2つの命は
枯れぬ花となった。
名前は黙って沈んでいく夕日を見つめ、俺はその赤く染まった横顔を見ていた。
「キレイですね」
いつか聞いた台詞だった。
あの時はその美しい笑顔が儚くて、消えてしまうんじゃないかと怯えて名前を傷つけた。
今だってそうだ。
「あぁ…そうだな」
消えないと、お前だけは消えないと言ってくれと、そう名前に言いたくて堪らなかった。
でもそれが何になる。
この不条理に捻じ曲げられ、花は育たず、ふと下を見れば薄氷の上を歩かされていたことに気付くような世界で、何になる。
名前が任務に行く前に、伝えたかったことがあった。
幼い頃の約束を守るためだけではなく、それ以上を望んだ。
名前に対する想いは愛情。慕情。恋。愛しい。執着。どれも当てはまらない、だがどれも正しい気もした。
言葉になんかならなかった。
「サソリ…」
名前が心配そうな顔で俺の右腕に触れた。
わかるはずもない名前の体温がそこに咲いた気がした。
「本当に…ごめんなさい」
いつも美しく、儚さを孕んだ名前が本当に壊れてしまいそうな気がした。
切断された右腕は、今は傀儡の腕となった。
それを気に病んでいるのだろう。
「そんな顔するな。腕くらい…昔は本気で傀儡になろうとしていた」
「サソリの大切な体です」
「…俺は、そう思ってなかった。心も全て何もかも傀儡にしてしまいたかった」
名前の瞳が絶望の色に染まる。
あぁ、またお前を傷つけてしまった。
「違う。今はそんな風に思ってない」
昔言っただろ?花を贈られて、喜んでいるお前が好きだと…
「本当に傀儡になってしまったら花もくれてやれないだろ」
名前が目を見開いた。
「…名前が俺を人でいさせてくれるんだ」
ついにはその美しい顔は苦しそうに歪んだ。
でもそれは悲しいからじゃない。
「私も…サソリに会って、嬉しいとか、楽しいとかもっと一緒にいたいとか、一緒にいれない時は寂しいとか、辛いとか…そう言う気持ちを知ったのです。サソリだけなのです」
だからどうか笑ってくれ。
「サソリが私と同じ気持ちでいてくれたらどんなに良いかと…」
「同じだ。ずっと昔から…これからも」
俺たちにはもうそれで十分だった。
言葉は儚くこの砂塵に紛れてしまうだろう。
いつしか傀儡となる夢の形は変わった。
幼い頃は完璧な傀儡として崇拝した名前は誰よりも人間らしく、その命は永遠ではないと知った。
だからこそこんなにも愛しい。
俺たちの命などこの戦乱の世では一瞬の瞬きに過ぎないかもしれない。
だがそれでも、永遠という言葉の中で2人、生きていけたならそれはどれほど良いだろう。
作り物となった手で名前の手を握る。
名前は何も言わずにこちらを見て手を握り返した。
潤んだ紫水晶の瞳に淡く紅の光が刺す。
流れる血をいくら吸おうと、この砂の地は潤うことはない。
それがわかっていても、俺たちはこれからもその手を血で染めていく。
たとえ地獄に近づこうと…
「名前」
「はい、サソリ」
お前さえいればーー
「この手を離すな」
いつかこの終わらない夜すら2人で切り裂いてみせる。
またひとつ、またひとつと溢れる涙を眺めた。
いつかここで見た涙とは違う涙が流れるのを、止めようとは思わなかった。
「離しません。永遠に…」
ーー造花の少女は人の心を求め、人である少年は心を捨て傀儡になりたがった。
しかしもうその必要は無くなった。
花も育たぬ、生きることを許さない砂の地で。
2つの命は
枯れぬ花となった。