造花の傀儡
名前変換
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遠くで轟音と爆音が聞こえる。
白衣を着た男達が青い顔をして狼狽えている。
慌てて外に様子を見に行く者。
必死に資料を持ち出そうとする者もいる。
これは…カゲツが私を連れ出してくれた時の夢だ。
あの時はわからなかったが、今になってカゲツが何故泣いていたのかわかる。
自分の死を覚悟したからでも、私を憐れに思ったからでもない。
私は存在してはいけなかった。こんなにも恐ろしい事になるなんて。
カゲツは恋人である博士と瓜二つの私を殺すことができず、その己の弱さに泣いたのだ。
「もう、殺して」
体が元に戻れば嫌でも彼らの所業に付き合わされるだろう。そうなれば今度こそ自分は人ではいられなくなる気がした。
あの一族は幻影を追うあまり、鬼子が花を争うように命を手折ってしまった。
自分さえ完成しなければ…。
名前博士が死んだ時点で朔夜一族は絶望し、こんなことにはならなかったのではないだろうか…。
「早く!168は地下に隠せ!」
「!?」
突然意識は淵より浮上して目を覚ました。
夢ではなかった。振動と爆音。何か異常な事が起こっていた。
「おい!起きろ!」
訳のわからぬうちにアサヅキが現れ、また担ぎ上げられた。先程よりは体も動かせたが、身じろくのが精一杯だった。
「砂隠れがわざわざお前一人を救出にここまで来るとはな、予想していなかった」
「え…?」
すぐに愛しい人の顔が浮かんだ。
「1人でくるとは…自殺行為としか思えんがな」
「!」
一瞬希望の光を見出したが先ほどよりも大きい絶望が襲い掛かった。
「そんな…っダメ!降ろして!降ろして!!」
流石のサソリでも1人でこの血継限界を相手にするのは無茶だ。敵は大勢いる。
「知り合いみたいだな、ちょうど良い」
「…?!、何するつもりなの?」
私は再び自分の複製達が眠るあの部屋に連れて行かれた。
それらをまた見たくなくて目を逸らした。
するとその辺の床に降ろされた。
気づくと外の音が静かになっていた。
どうして?
まさかーー。
「お、お願い!彼を殺さないで!」
「それはお前の態度次第だな」
「アサヅキ様、…連れてきました」
いつの間にか別の男が入ってきた。
背の高い…自分をここまで連れてきたあの忍びだった。
その肩には少年が担がれていた。
「あ、…っ」
男はその少年を乱雑に床に放った。
「サソリ…っサソリ‼︎」
小さい呻き声の後、
「…っ…名前?…無事、か…?」
うつ伏せに倒れたサソリが顔を上げた。
サソリの体は満身創痍だった。
チャクラも使い切ってしまったのか、動けそうもなかった。
そんなサソリを見て自分を呪った。
「168…いや、名前。その少年の命を救いたいだろう。我々に協力しろ」
「い、いや…」
「楽園へ連れて行け、今すぐに」
アサヅキは月影が大切そうに持っていた巻物を取り出して私の前に広げた。
「あの強欲な月影ではなく、私を導け」
「もう…っもういい加減にして!!私にはできない!ありもしない楽園なんか…!!」
私が声を荒げて抵抗すると、男は明らかに苛立った様子で表情を険しくした。そしてサソリのそばに立っていた大男に目配せした。
大男がゆっくりと動いた。
サソリの襟首を掴んで無理矢理体を起こさせた。
私は必死に叫んだ。
「やめて!その人に触らないで!」
「早くしろ」
手先が冷え切って、息もうまく吐き出せず、生きた心地がしなかった。
サソリはゆっくり顔を上げてこちらを見た。
その目は、まだ輝きを失っていなかった。
「…サソ…?」
「名前…そいつの言うことなんか聞くな、そんな脅しに乗る必要はない」
まだサソリには何か狙いがあるのだと、察した。
しかしそれはアサヅキも勘付いたようだ。
「…なんだ…?もしかして時間稼ぎをしているのか?」
「…」
アサヅキはサソリの顔を訝しげに見つめ、次の瞬間には玩具を与えられた幼子のように笑った。
それが合図だったかのように大男がサソリの右腕を掴みあげた。
「え…な、何を…やめて…」
「俺が本気なのがわかっていないようだな」
アサヅキがそう言うと、サソリの腕掴んでいる男は持っていた大刀を高く振り上げた。
そしてそれを、真っ直ぐに振り下ろした。
ザンッ‼︎‼︎
「ーーっがああぁ‼︎‼︎」
それはサソリの右腕を肘関節から遠位を完全に離断してしまった。
「やあああああ‼︎‼︎」
血が吹き出る。愛しい人の苦痛に満ちた表情。
激しい頭痛と耳鳴りが世界の悲鳴を轟かせた。
「サソリっ…!サソリーーー!!」
這いつくばって手を伸ばした。届かなくて踠いた。地面を引っ掻き、爪が剥がれるのもわからなかった。
ーーー嫌だ。嫌だ。奪われてたまるか。
自分の中から湧き起こる憎悪と殺意で喉が焼けそうなほど叫んだ。
目の前が真っ赤に染まる。
ーー殺シテヤルーーー
そこで、全ての音は途切れた。
「…ぐ、?…ぅ…」
気づけば男の大刀を奪いその心臓に突き刺していた。
「…ぇ」
男は崩れ落ち、その場に血溜まりを作った。
今、自分はどうやってこの男を殺したのだろうーー?
「…名前…今…どう、やった…?」
その声を聞いてハッとした。
足元には顔面蒼白で今にも命が消えてしまいそうなサソリがいた。
「ーーサソリ‼︎」
震える手で自分の腕に巻かれていた包帯を毟り取り、サソリの右上腕部にきつく巻こうとした。
手の震えが止まらない。力が入らない。
歯で包帯を噛み締めて締め上げた。
涙が止まらない。
この愛しい身体が変わり身だったらという淡い期待は脆く崩れ去った。
「やはり、お前は彼女が残した特別な存在なのだ…」
アサヅキの声と足音がこちらに近づいてきた。
ハッとして顔を上げた。
「印も結ばず空間移動忍術が使えるとは…」
サソリを抱きしめる。
しかし立ち上がれない、足が言うことを聞かない。
「名前…俺と共に楽園へ行こう。兄上はお前を騙している。どうして気づかないんだ」
アサヅキはまるで夢を見ているように話していた。
ずっと幻を追っているのだ…。
もう、救いようがなかった。
巻物を持ったその手がこちらに伸びる。
その時1人の声が静かに響いた。
「砂鉄時雨ーー」
続く轟音。
アサヅキがいた場所に鉄粒の雨が降った。
地面は抉れ、床は大きく傾いた。
そして目の前に威厳のある背中が現れた。
「…遅え、名前が手を怪我しちまったじゃねぇか…」
「ーーさ、三代目…」
風影は振り返って、私達のボロボロな姿に驚いたようで目を見開いた。
「無理言うな。忍び里1つをたった2人で相手しているのだぞ。サソリ…重症だな。退路は確保した、行くぞ」
アサヅキの気配はなかった。どうやら風影の登場は余程想定外だったのか、分が悪いと判断して逃げたようだ。
私は足先に何か触れたのに気がついた。
そこには転がった巻物があった。
「これは…」
アサヅキが落としたようだ。こんなガラクタ燃やしてしまいたかったが、奴らの企てを阻止する手がかりがあるかもと思い、巻物を袖の中にそっとしまった。
「早くしないと月影の直属の部隊が来るぞ。2人とも掴まっていろ」
立ち上がることもできない私達を、体躯の良い風影は両脇にそれぞれ抱えるとその場から瞬時に消えた。