造花の傀儡
名前変換
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あれからアサヅキは名前を部屋に戻して姿を消した。
傷が治るまではゆっくりしていろと言い残して。
名前の体は相変わらず動かすことができず、只々真っ白な天井を見ていた。
細胞分裂を無理やり促し、傷を治す薬を打たれているらしい。副作用が酷い。
ーーこんなところにいたくない…。
自分が異質なものだと実感する。
真っ白な部屋は嫌に眩しすぎてここにいるだけで気分が悪かった。
「早く、帰らないと…」
待つのも待たせるのも嫌いな彼の顔が浮かぶ。
とはいえ体もいうことを聞かず、チャクラも思うように練ることが出来ない。
ここは結界に守られていると言っていた。
壊さない限り外から気付いてもらうことも、出ることも出来ない。
すると部屋の扉が勢いよく開けられた。
名前は驚いて首と目線だけ動かしてそちらを見た。
見たこともない初老の女性がこちらを嬉々とした表情で見ていた。
自分を見るその目に身震いした。
アサヅキと同じく煌々とし、静かな混沌を孕んでいる。
「よく戻ったわ168!貴方に見せたいものがあるの!一緒にきて!」
今度は何だと言うのだ。
女の後ろに控えていた白衣の男たちがまた名前を抱えて車椅子に乗せた。
物のように扱われて悔しかった。
しかし名前ははたと気付いた。
コイツらにとっては自分はただのモルモットでしかない。五歳までの記憶と何ら変わりなかった。
サソリがそばにいてくれたから…そんなこと忘れていた。
女は意気揚々と歩き出した。
その後ろに白衣の男たちがついて車椅子を押してついていく。
「私は月隠れの長であり朔夜一族の当主よ」
「!」
この女が月影…。
「カゲツが謀反を起こした時は流石に驚いたわ。名前博士が死んで、いつか里に反旗を翻すだろうとは思ってたけど…まさか砂隠れに助けを求めていたとはね」
月影と名乗るその女はとある部屋に入ると名前の目の前で屈み、その目を見た。
「馬鹿な男」
「…」
言いようのない悔しさが名前の中を占めた。
月影は手で合図をすると部下の男たちを部屋から追い出した。
部屋はおそらくこの月影の執務室のような物だろうか。
「結局こうやって戻ってくる運命だったんだもの。私たち一族を…楽園に導くためにね」
巻物を手に持っていた。
それを名前に見せた。
「…これは?」
「初代月影はこの禁術を使って楽園へ導かれたと言われているわ」
「…」
手が動かせない名前の代わりに、月影は巻物を開いて見せた。
「!」
血だらけだった。黒ずんでいる。古い…もう随分昔のものだろう。思わず顔を歪めてしまった。
「今まで一族の誰もがこの巻物の術を発動させようと血を捧げたけどダメだったわ。私も…覚えてないだろうけど幼い頃のあなたですらね」
そしてその巻物を呆気なく近くの屑籠に放ってしまった。
「?!」
「あんな骨董品そもそも必要なかったのよ。私たちは自分の力で禁術を編み出したわ」
今度は厳重に鍵のかけられた宝石箱の中から真新しい巻物を取り出した。
「貴方さえいれば、この術が完成するわ」
それは先ほどの巻物によく似ていた。
「貴方がいない間、人体の複製以外にも研究を重ねてきたのよ。すでにこれを使って一族の中から空間移動忍術が使える者が数名出たわ…。だけど既にその瞳を持ってる168…貴方ならきっと楽園まで行けるわ」
名前にはもううんざりだった。
「どうして…どうしてそこまで楽園に拘るの?!貴方たちの言う楽園って何なの?!どうして私なの?!」
女は嬉々とした表情からスッと、冷たい表情に変わった。
「どうして?ですって?…そうね、あなたはお人形さんだからわからないでしょうね」
月影は名前の小さな顎を乱暴に掴んだ。
「がっ…!」
「古より月隠れはこの血継限界目当てで何度もその土地や民を蹂躙されてきたわ。たいして力のない里の民は私たち朔夜の一族に縋るだけ…最後はここまで土地を追われて…この高尚な一族に何たる屈辱か!!」
気が狂いそうだった。
部屋には狂気と怒りが充満して息も出来ない。
「…貴方に理解する必要はないわ。ただ使命を果たしてくれればいい。貴方がこの術を扱えなくても、貴方の姉妹が誰か必ず成し遂げてくれるわ」
そこで名前は胃の腑が冷え切る感覚を覚えた。
「姉妹…??」
月影が手を叩くとまた部下の男が入ってきた。
また場所を移動するらしい。
名前が乗っている車椅子がまた押される。
部屋を出て、配線や通気口がより多く向かっている方角へ進んでいく。
ーーイヤだ。そっちには行きたくない。
本能が叫んでいた。
身体がわずかに震える。
人通りも無くなってきた。
壁はよくわからない配線や配電盤、機械で埋め尽くされて見えなかった。
突き当たりの扉が開く。
「あ…」
薄暗い部屋の中。
機械の青白い光で満たされる。
声にはならなかった。
自分と同じ顔をした“もの”が体を丸めて大きなビーカーの中で眠っていた。
「貴方みたい自我のある“名前”はまだ作れてないんだけど、オリジナルに一番近い貴方がいればそのうち成功するわ」
月影の声は耳に届かなかった。
さらに奥に勝手に車椅子が進んでいく。
「い、いや…」
奥にはまだ同じような水槽達が並んでいた。
まだ胎児のような大きさのようなものから幼児のものまで…中には人の形にすらなれなかった異形のものもーー
「ぐっぅ!ーーぅえっ!」
胃の内容物が押し上げられた。
「あらあら、薬の副作用が辛いのね。そのうち楽になるわ」
まるで見当違いなことを言う女を睨むこともできなかった。
部下の男が布で名前の顔や手を拭いてやった。
「ーーもう、やめて…こんな、何の意味もっ…」
気管支が収縮してうまく話すことができない。
ーー苦しい。息ができない。…助けて。
「…、そろそろ休ませましょう。チャクラが練られるようになるまでは睡眠薬を投与して」
腕にチクリとした痛みが走った。
女の声が遠くで聞こえた気がした。
「早く元気になってねーー」
傷が治るまではゆっくりしていろと言い残して。
名前の体は相変わらず動かすことができず、只々真っ白な天井を見ていた。
細胞分裂を無理やり促し、傷を治す薬を打たれているらしい。副作用が酷い。
ーーこんなところにいたくない…。
自分が異質なものだと実感する。
真っ白な部屋は嫌に眩しすぎてここにいるだけで気分が悪かった。
「早く、帰らないと…」
待つのも待たせるのも嫌いな彼の顔が浮かぶ。
とはいえ体もいうことを聞かず、チャクラも思うように練ることが出来ない。
ここは結界に守られていると言っていた。
壊さない限り外から気付いてもらうことも、出ることも出来ない。
すると部屋の扉が勢いよく開けられた。
名前は驚いて首と目線だけ動かしてそちらを見た。
見たこともない初老の女性がこちらを嬉々とした表情で見ていた。
自分を見るその目に身震いした。
アサヅキと同じく煌々とし、静かな混沌を孕んでいる。
「よく戻ったわ168!貴方に見せたいものがあるの!一緒にきて!」
今度は何だと言うのだ。
女の後ろに控えていた白衣の男たちがまた名前を抱えて車椅子に乗せた。
物のように扱われて悔しかった。
しかし名前ははたと気付いた。
コイツらにとっては自分はただのモルモットでしかない。五歳までの記憶と何ら変わりなかった。
サソリがそばにいてくれたから…そんなこと忘れていた。
女は意気揚々と歩き出した。
その後ろに白衣の男たちがついて車椅子を押してついていく。
「私は月隠れの長であり朔夜一族の当主よ」
「!」
この女が月影…。
「カゲツが謀反を起こした時は流石に驚いたわ。名前博士が死んで、いつか里に反旗を翻すだろうとは思ってたけど…まさか砂隠れに助けを求めていたとはね」
月影と名乗るその女はとある部屋に入ると名前の目の前で屈み、その目を見た。
「馬鹿な男」
「…」
言いようのない悔しさが名前の中を占めた。
月影は手で合図をすると部下の男たちを部屋から追い出した。
部屋はおそらくこの月影の執務室のような物だろうか。
「結局こうやって戻ってくる運命だったんだもの。私たち一族を…楽園に導くためにね」
巻物を手に持っていた。
それを名前に見せた。
「…これは?」
「初代月影はこの禁術を使って楽園へ導かれたと言われているわ」
「…」
手が動かせない名前の代わりに、月影は巻物を開いて見せた。
「!」
血だらけだった。黒ずんでいる。古い…もう随分昔のものだろう。思わず顔を歪めてしまった。
「今まで一族の誰もがこの巻物の術を発動させようと血を捧げたけどダメだったわ。私も…覚えてないだろうけど幼い頃のあなたですらね」
そしてその巻物を呆気なく近くの屑籠に放ってしまった。
「?!」
「あんな骨董品そもそも必要なかったのよ。私たちは自分の力で禁術を編み出したわ」
今度は厳重に鍵のかけられた宝石箱の中から真新しい巻物を取り出した。
「貴方さえいれば、この術が完成するわ」
それは先ほどの巻物によく似ていた。
「貴方がいない間、人体の複製以外にも研究を重ねてきたのよ。すでにこれを使って一族の中から空間移動忍術が使える者が数名出たわ…。だけど既にその瞳を持ってる168…貴方ならきっと楽園まで行けるわ」
名前にはもううんざりだった。
「どうして…どうしてそこまで楽園に拘るの?!貴方たちの言う楽園って何なの?!どうして私なの?!」
女は嬉々とした表情からスッと、冷たい表情に変わった。
「どうして?ですって?…そうね、あなたはお人形さんだからわからないでしょうね」
月影は名前の小さな顎を乱暴に掴んだ。
「がっ…!」
「古より月隠れはこの血継限界目当てで何度もその土地や民を蹂躙されてきたわ。たいして力のない里の民は私たち朔夜の一族に縋るだけ…最後はここまで土地を追われて…この高尚な一族に何たる屈辱か!!」
気が狂いそうだった。
部屋には狂気と怒りが充満して息も出来ない。
「…貴方に理解する必要はないわ。ただ使命を果たしてくれればいい。貴方がこの術を扱えなくても、貴方の姉妹が誰か必ず成し遂げてくれるわ」
そこで名前は胃の腑が冷え切る感覚を覚えた。
「姉妹…??」
月影が手を叩くとまた部下の男が入ってきた。
また場所を移動するらしい。
名前が乗っている車椅子がまた押される。
部屋を出て、配線や通気口がより多く向かっている方角へ進んでいく。
ーーイヤだ。そっちには行きたくない。
本能が叫んでいた。
身体がわずかに震える。
人通りも無くなってきた。
壁はよくわからない配線や配電盤、機械で埋め尽くされて見えなかった。
突き当たりの扉が開く。
「あ…」
薄暗い部屋の中。
機械の青白い光で満たされる。
声にはならなかった。
自分と同じ顔をした“もの”が体を丸めて大きなビーカーの中で眠っていた。
「貴方みたい自我のある“名前”はまだ作れてないんだけど、オリジナルに一番近い貴方がいればそのうち成功するわ」
月影の声は耳に届かなかった。
さらに奥に勝手に車椅子が進んでいく。
「い、いや…」
奥にはまだ同じような水槽達が並んでいた。
まだ胎児のような大きさのようなものから幼児のものまで…中には人の形にすらなれなかった異形のものもーー
「ぐっぅ!ーーぅえっ!」
胃の内容物が押し上げられた。
「あらあら、薬の副作用が辛いのね。そのうち楽になるわ」
まるで見当違いなことを言う女を睨むこともできなかった。
部下の男が布で名前の顔や手を拭いてやった。
「ーーもう、やめて…こんな、何の意味もっ…」
気管支が収縮してうまく話すことができない。
ーー苦しい。息ができない。…助けて。
「…、そろそろ休ませましょう。チャクラが練られるようになるまでは睡眠薬を投与して」
腕にチクリとした痛みが走った。
女の声が遠くで聞こえた気がした。
「早く元気になってねーー」