造花の傀儡
名前変換
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サソリ達は近辺をしばらく捜索したが名前の姿どころか、痕跡すらも掴めなかった。
名前の傀儡である一華があんな状態だったため、名前も無傷ではないことは予想できた。それなのに一体どこへ姿を消したのか見当もつかなかった。
結局、霧隠れの追手に気づかれる危険もあり長くは捜索できなかった。
△
「なんだと!?そんな馬鹿な話があるか!」
作戦本部である部屋にサソリの怒声が響いた。
部屋には風影、元老院数名、暗部の幹部が数名いた。
「当然であろう。忍び1人のためだけにこれ以上の犠牲は払えん。潜入任務にて得た情報は無事回収できたのだ。これ以上水の国の国境に踏み入る必要はない」
名前の救出作戦について話し合うはずが、サソリの意思とは正反対の意見が元老院から言い渡された。
「すまないが…暗部も同意見だ。聞いた状況から名前はまず霧隠れに捕らえられたとみて間違い無いだろう。救出は困難だ…」
「そっちの部下を助けたのは誰だと思ってる?」
「…」
サソリが歯を食いしばる。さらに元老院が続ける。
「名前も忍びだ。安心せい。苦しまずに自分の始末くらいーー」
「ふざけるな!!」
元老院は元々名前を余所者扱いで、都合の良い駒にしか思っていない。サソリはこれ以上の話し合いは無駄と思い荒々しい様子でそのまま部屋を出た。
「サソリめ…。風影殿、放っておいてよろしいので?あやつ、あの様子では勝手な行動をしかねん」
皆が風影を見る。
風影は少し考えた後、告げた。
「…そうだな。俺に任せてくれないか。サソリには辛いだろうが、名前は死んだと判らせた方が良いだろう…。サソリには傀儡部隊の隊長としてこれからも機能してもらわなくては困る」
元老院はその言葉に満足したように頷いた。
「御意。では、そのように…」
△
サソリは本部の中のとある場所に向かっていた。そこは普段は傀儡部隊の人間が待機していたり、傀儡の整備なんかに使う詰所のような一角が設けられていた。
サソリは隊の中でも信頼のおける数名に一時傀儡部隊を預け、1人でも霧隠れの里に潜入するつもりだった。
名前が今までどれだけ里に貢献していようとこの時代では何の関係もなかった。あまりに度し難い。
しかしどうだろう。もし捕らえられたのが名前ではなく他の忍びであったなら?自分は上層部と同じように判断したのではないだろうか…?
地位が上になれば時には苦渋の決断も必要である。
これは個人的な感情だとわかっている。
それでも…。
廊下の窓から風が吹き込んだ。
ふとサソリは足を止めて窓の外を見た。
本部の窓から里が見渡せた。
砂に囲まれ、資源や物質は限られ、元々五大国の中では力が劣る砂隠れの里。
この里には名前のような聡明で、優秀な忍びが必要なのだ。
なにより自分のために。
ーーー待ってろ名前。必ず救う。
詰所に行くと名前と小隊を組んでいたチームと暗部の男が1人いた。
名前の小隊に救出された暗部の男だ。
「サソリ隊長。名前副隊長の救出の任務を自分にも手伝わせてください」
男は面を外して頭を下げた。
「…いや、救出は俺1人で行く。上からは名前を見捨てろとの命令だ」
その言葉に驚いて頭を下げていた男が顔を勢いよくあげた。
他の者たちも口々に抗議の声を上げた。
「そんな…!」
「我々も行きます!副隊長には今までだって何度も命を救われました!」
「ここで恩を仇で返すなんてできません!」
ここにいる者達は特に名前と長く任務を共にしてきた者たちだった。
名前は上役や一部の忍びからは他里の出身であることで、敬遠されることもあった。
しかし傀儡部隊では確実に信頼を得ていた。副隊長として申し分ないほど自分や隊を支え、その手腕を振るい、仲間や里のためにその手を血で染めてきた。
ふと、サソリはいつか名前が言っていたことを思い出した。
ーー私のことを毛嫌いしている者は多いでしょう。しかし忍びとしては信用してもらわないことには任務に支障が出ます。だから私は失敗できません。
名前自身がもう少し“仲間”からの信頼を感じていられたら1人で残ったりしなかったのではないだろうか。
彼女が元々砂隠れの民であったなら、救出の許可も降りただろうか?
サソリは初めて名前の境遇を嘆いた。
「ーーサソリ隊長?」
気付くと足元を見たまま黙り込んでしまったサソリを皆が訝しんでいた。
「…何でもねぇ。とにかくお前達には俺が留守の間傀儡部隊を任せる。命令だ。勝手に離れることは俺も、副隊長も許さねぇ」
「隊長…」
サソリは確実に命令違反により、里からの信頼を損ねるだろう。厳罰は免れない。
「まさか、帰ってこないおつもりじゃないですよね…?」
1人が恐る恐る尋ねた。
「…そんなわけねぇだろ。それより霧隠れの追手を呼び寄せた得体の知れない男についてもう一度教えろ。そいつが恐らく名前を連れ去った。その男の死体はあの場になかったからな」
皆未だに納得できていない様子だったが、ひとまず状況を整理し直すことにした。
状況を思い出しながら口を開いていった。
「その男、額当てはしていませんでした。妙な術を使っていて、名前副隊長が張った結界の中に突然現れました」
「攻撃も突然消えて躱されました。そんなに強そうな忍びには見えませんでしたが…。恐らく後続部隊が辿り着くまでのただの時間稼ぎのためだけの忍びだったのではと…」
皆の話を聞いたサソリには不可解な点がいくつかあった。後続の部隊を待つ間、わざわざ1人で結界の中にまで乗り込む必要があっただろうか?
気配を消し、部隊を待っていればよかっただけのことを…。実際まんまと名前以外の忍びには逃げられている。
…逃げられてもよかった?
額当てをしていなかった理由は?
水の国の忍びではないのか?
名前を殺さず連れて行った理由は?
分からないことが多すぎる。
このまま霧隠れを探っても無駄足の可能性も大きいように感じられた。
皆が黙って思案する中。
「そういば…」
「?」
暗部の男が話し出した。
「その男が結界の中に乗り込んできた時、妙なことを呟いていて…」
「妙なこと?」
「聞き取れなかったので口の動きを見たのですが、おそらく168と言っていました。何のことだかさっぱりで…」
「168?なんだそーー」
はっとした。
サソリは聞き覚えがあった。
そして同時に背中に寒気を感じた。
名前に出会った頃、病室で名前が自分に話してくれた。
月隠れでどんな過ごし方をしていたか。
ーーそこで何と呼ばれていたか。
名前の傀儡である一華があんな状態だったため、名前も無傷ではないことは予想できた。それなのに一体どこへ姿を消したのか見当もつかなかった。
結局、霧隠れの追手に気づかれる危険もあり長くは捜索できなかった。
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「なんだと!?そんな馬鹿な話があるか!」
作戦本部である部屋にサソリの怒声が響いた。
部屋には風影、元老院数名、暗部の幹部が数名いた。
「当然であろう。忍び1人のためだけにこれ以上の犠牲は払えん。潜入任務にて得た情報は無事回収できたのだ。これ以上水の国の国境に踏み入る必要はない」
名前の救出作戦について話し合うはずが、サソリの意思とは正反対の意見が元老院から言い渡された。
「すまないが…暗部も同意見だ。聞いた状況から名前はまず霧隠れに捕らえられたとみて間違い無いだろう。救出は困難だ…」
「そっちの部下を助けたのは誰だと思ってる?」
「…」
サソリが歯を食いしばる。さらに元老院が続ける。
「名前も忍びだ。安心せい。苦しまずに自分の始末くらいーー」
「ふざけるな!!」
元老院は元々名前を余所者扱いで、都合の良い駒にしか思っていない。サソリはこれ以上の話し合いは無駄と思い荒々しい様子でそのまま部屋を出た。
「サソリめ…。風影殿、放っておいてよろしいので?あやつ、あの様子では勝手な行動をしかねん」
皆が風影を見る。
風影は少し考えた後、告げた。
「…そうだな。俺に任せてくれないか。サソリには辛いだろうが、名前は死んだと判らせた方が良いだろう…。サソリには傀儡部隊の隊長としてこれからも機能してもらわなくては困る」
元老院はその言葉に満足したように頷いた。
「御意。では、そのように…」
△
サソリは本部の中のとある場所に向かっていた。そこは普段は傀儡部隊の人間が待機していたり、傀儡の整備なんかに使う詰所のような一角が設けられていた。
サソリは隊の中でも信頼のおける数名に一時傀儡部隊を預け、1人でも霧隠れの里に潜入するつもりだった。
名前が今までどれだけ里に貢献していようとこの時代では何の関係もなかった。あまりに度し難い。
しかしどうだろう。もし捕らえられたのが名前ではなく他の忍びであったなら?自分は上層部と同じように判断したのではないだろうか…?
地位が上になれば時には苦渋の決断も必要である。
これは個人的な感情だとわかっている。
それでも…。
廊下の窓から風が吹き込んだ。
ふとサソリは足を止めて窓の外を見た。
本部の窓から里が見渡せた。
砂に囲まれ、資源や物質は限られ、元々五大国の中では力が劣る砂隠れの里。
この里には名前のような聡明で、優秀な忍びが必要なのだ。
なにより自分のために。
ーーー待ってろ名前。必ず救う。
詰所に行くと名前と小隊を組んでいたチームと暗部の男が1人いた。
名前の小隊に救出された暗部の男だ。
「サソリ隊長。名前副隊長の救出の任務を自分にも手伝わせてください」
男は面を外して頭を下げた。
「…いや、救出は俺1人で行く。上からは名前を見捨てろとの命令だ」
その言葉に驚いて頭を下げていた男が顔を勢いよくあげた。
他の者たちも口々に抗議の声を上げた。
「そんな…!」
「我々も行きます!副隊長には今までだって何度も命を救われました!」
「ここで恩を仇で返すなんてできません!」
ここにいる者達は特に名前と長く任務を共にしてきた者たちだった。
名前は上役や一部の忍びからは他里の出身であることで、敬遠されることもあった。
しかし傀儡部隊では確実に信頼を得ていた。副隊長として申し分ないほど自分や隊を支え、その手腕を振るい、仲間や里のためにその手を血で染めてきた。
ふと、サソリはいつか名前が言っていたことを思い出した。
ーー私のことを毛嫌いしている者は多いでしょう。しかし忍びとしては信用してもらわないことには任務に支障が出ます。だから私は失敗できません。
名前自身がもう少し“仲間”からの信頼を感じていられたら1人で残ったりしなかったのではないだろうか。
彼女が元々砂隠れの民であったなら、救出の許可も降りただろうか?
サソリは初めて名前の境遇を嘆いた。
「ーーサソリ隊長?」
気付くと足元を見たまま黙り込んでしまったサソリを皆が訝しんでいた。
「…何でもねぇ。とにかくお前達には俺が留守の間傀儡部隊を任せる。命令だ。勝手に離れることは俺も、副隊長も許さねぇ」
「隊長…」
サソリは確実に命令違反により、里からの信頼を損ねるだろう。厳罰は免れない。
「まさか、帰ってこないおつもりじゃないですよね…?」
1人が恐る恐る尋ねた。
「…そんなわけねぇだろ。それより霧隠れの追手を呼び寄せた得体の知れない男についてもう一度教えろ。そいつが恐らく名前を連れ去った。その男の死体はあの場になかったからな」
皆未だに納得できていない様子だったが、ひとまず状況を整理し直すことにした。
状況を思い出しながら口を開いていった。
「その男、額当てはしていませんでした。妙な術を使っていて、名前副隊長が張った結界の中に突然現れました」
「攻撃も突然消えて躱されました。そんなに強そうな忍びには見えませんでしたが…。恐らく後続部隊が辿り着くまでのただの時間稼ぎのためだけの忍びだったのではと…」
皆の話を聞いたサソリには不可解な点がいくつかあった。後続の部隊を待つ間、わざわざ1人で結界の中にまで乗り込む必要があっただろうか?
気配を消し、部隊を待っていればよかっただけのことを…。実際まんまと名前以外の忍びには逃げられている。
…逃げられてもよかった?
額当てをしていなかった理由は?
水の国の忍びではないのか?
名前を殺さず連れて行った理由は?
分からないことが多すぎる。
このまま霧隠れを探っても無駄足の可能性も大きいように感じられた。
皆が黙って思案する中。
「そういば…」
「?」
暗部の男が話し出した。
「その男が結界の中に乗り込んできた時、妙なことを呟いていて…」
「妙なこと?」
「聞き取れなかったので口の動きを見たのですが、おそらく168と言っていました。何のことだかさっぱりで…」
「168?なんだそーー」
はっとした。
サソリは聞き覚えがあった。
そして同時に背中に寒気を感じた。
名前に出会った頃、病室で名前が自分に話してくれた。
月隠れでどんな過ごし方をしていたか。
ーーそこで何と呼ばれていたか。