造花の傀儡
名前変換
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それは俺と名前が作戦会議のために本部まで足を運んだ時のことだった。
会議室に向かうため廊下を移動しているとき厄介な人物がいるのに気がついた。
「おお。サソリ!それに名前ではないか。ちょうどよかった」
里の元老院の1人である老人に話しかけられた。
俺は隠す気もなくあからさまに眉間にシワを寄せた。
元老院が名前のことをよく思っていないのを、俺は随分と前から知っていたからだ。朔の国の出身で、禁術によって生まれた名前をずっと警戒している。
名前は無難な挨拶を返していた。
「サソリ!君は里の誉だな。先日の国境奪還の手腕は見事であった!」
「…お言葉ですがあれは副隊長である名前のーー」
「君は謙虚だな!里の顔として申し分ない!」
「…」
こんな時代遅れの老人の相手は疲れる。
もう作戦会議も始まる。適当にあしらおうとしたが…
「それにしても…名前は少し見ない間に随分大人びたな…」
ジジイが名前の全身を舐め回すように観察しだした。
このクソジジが。
傀儡にすんぞ。
いや、こんなやつ傀儡にしたくもない。
だいたい名前は幼少期から美しい。十五になってさらに神懸ってきている。あどけなさもありながら横髪を耳にかける仕草や伏せ目がちに微笑む表情は妖艶な雰囲気さえある。それからーー…
「喜べ!そんな名前に縁談の話があってな!またとないチャンスだろう」
ーーーは?
コイツは今何と言った?
「ご縁談…ですか?」
名前が若干後退りしながら尋ねた。
「そうだ!なに、もちろんすぐに嫁げってわけじゃない。大名の御子息で亜門という方じゃ」
ーーー亜門…?
すぐにあの心身共にひ弱で軟弱者な馬鹿息子の顔が出てきた。下忍の頃名前と一緒に護衛についたヤツだ。
「昔お前さんに助けられたと甚く気に入っておられた!年頃になれば嫁にもらえないかと相談されてな。わしらもあの大名家と橋渡しが出来るのは非常にーー」
「申し訳ありませんが、名前にそう言ったお話は不要です。今から作戦会議がありますのでこれで失礼します」
名前の手を引いてすぐさまその場を後にした。
爺が何か言いかけたが構わなかった。
ーーー冗談じゃない。
会議の最中も俺は心穏やかじゃなかった。
何のために、名前をこんな常に前線で戦うような部隊の副隊長にまでしたと思っている。
名前は他里の出身で何より美しい。
すぐに年頃になれば諜報、潜入、色の任務、都合の良いように里に使われるのが目に見えていた。
だから俺と同時に名前までもが下忍になるよう急かされた時は上層部の謀略を感じずにはいられなかった。
幸い名前は忍びとしても優秀で聡明だ。
こちらで任務をコントロールできるよう同じ部隊に入り、俺はひたすら上を目指した。
傀儡部隊の隊長ともなればいくら上役だろうが暗部最高司令だろうが、風影ですら俺に相談なしに勝手な任務を与える事はできない。
そして隊長の俺の片腕はもはや名前しか務まらない。
俺の計画は順調だ。
これからも里の言いなりにはならない。
△
作戦は予定通り明日に決行ということで、会議は終わり、解散した。
「サソリ…」
「ん?」
帰ろうとする俺を名前が不安げな表情をして見ていた。
思わずドキリとした。俺にしかこんな顔を見せない可愛い奴なのだ。
ぐぅ…。
「大丈夫だ。名前はこの先も里になくてはならない人材だ。あんな話し、俺がすぐに白紙にしてやる」
「…はい」
まだ名前の表情は晴れなかった。
最悪の場合あの亜門とか言うやつを暗殺すれば良いだろうか。
大体あの男と名前では歳が離れすぎている。あんな変態に名前をくれてやるはずがない。
そもそも俺以外の奴なんて言語道断。部隊の中にも隙あらば名前に近づこうとした奴が今までも何人もいた。後日手合わせと称して相手の傀儡を木っ端微塵にして牽制してきた。
これからだってそうするさ。
気がつくと部屋には俺たち2人だけだった。日も暮れて締め切った窓のカーテンが赤く染まっていた。もう出ようと足を進めようとすると名前が俺の腕を掴んだ。
「サソリ…の、そばにこれからもいられますよね?」
あたりは静まり返って、名前の柔らかい声だけが聞こえた。
真っ直ぐ見つめる紫色の水晶に引き込まれそうだ。頬が赤いように見えるのは夕日のせいだろうか…。
名前は…俺のことをどう思っているのだろう。
大切に思ってくれている事は感じている。
だが、それは俺と同じような気持ちだろうか?
昔の約束を守ろうとしてくれているだけだとしたら?
俺はーー
小さい頃、そばにいると抱きしめて、約束してくれた時からきっと名前のことを…
「ーーあぁ、名前は俺の片腕だろう?あんな軟弱者に嫁にくれてやる気はないから安心しろ」
そう俺のーー片腕なんてもんじゃない。そう、強いて言えば俺の全てだ。そう言えたならどれほど良かったか。
俺はこの時、名前にその言葉にならぬ想いを伝えなかったことを、後に後悔した。
会議室に向かうため廊下を移動しているとき厄介な人物がいるのに気がついた。
「おお。サソリ!それに名前ではないか。ちょうどよかった」
里の元老院の1人である老人に話しかけられた。
俺は隠す気もなくあからさまに眉間にシワを寄せた。
元老院が名前のことをよく思っていないのを、俺は随分と前から知っていたからだ。朔の国の出身で、禁術によって生まれた名前をずっと警戒している。
名前は無難な挨拶を返していた。
「サソリ!君は里の誉だな。先日の国境奪還の手腕は見事であった!」
「…お言葉ですがあれは副隊長である名前のーー」
「君は謙虚だな!里の顔として申し分ない!」
「…」
こんな時代遅れの老人の相手は疲れる。
もう作戦会議も始まる。適当にあしらおうとしたが…
「それにしても…名前は少し見ない間に随分大人びたな…」
ジジイが名前の全身を舐め回すように観察しだした。
このクソジジが。
傀儡にすんぞ。
いや、こんなやつ傀儡にしたくもない。
だいたい名前は幼少期から美しい。十五になってさらに神懸ってきている。あどけなさもありながら横髪を耳にかける仕草や伏せ目がちに微笑む表情は妖艶な雰囲気さえある。それからーー…
「喜べ!そんな名前に縁談の話があってな!またとないチャンスだろう」
ーーーは?
コイツは今何と言った?
「ご縁談…ですか?」
名前が若干後退りしながら尋ねた。
「そうだ!なに、もちろんすぐに嫁げってわけじゃない。大名の御子息で亜門という方じゃ」
ーーー亜門…?
すぐにあの心身共にひ弱で軟弱者な馬鹿息子の顔が出てきた。下忍の頃名前と一緒に護衛についたヤツだ。
「昔お前さんに助けられたと甚く気に入っておられた!年頃になれば嫁にもらえないかと相談されてな。わしらもあの大名家と橋渡しが出来るのは非常にーー」
「申し訳ありませんが、名前にそう言ったお話は不要です。今から作戦会議がありますのでこれで失礼します」
名前の手を引いてすぐさまその場を後にした。
爺が何か言いかけたが構わなかった。
ーーー冗談じゃない。
会議の最中も俺は心穏やかじゃなかった。
何のために、名前をこんな常に前線で戦うような部隊の副隊長にまでしたと思っている。
名前は他里の出身で何より美しい。
すぐに年頃になれば諜報、潜入、色の任務、都合の良いように里に使われるのが目に見えていた。
だから俺と同時に名前までもが下忍になるよう急かされた時は上層部の謀略を感じずにはいられなかった。
幸い名前は忍びとしても優秀で聡明だ。
こちらで任務をコントロールできるよう同じ部隊に入り、俺はひたすら上を目指した。
傀儡部隊の隊長ともなればいくら上役だろうが暗部最高司令だろうが、風影ですら俺に相談なしに勝手な任務を与える事はできない。
そして隊長の俺の片腕はもはや名前しか務まらない。
俺の計画は順調だ。
これからも里の言いなりにはならない。
△
作戦は予定通り明日に決行ということで、会議は終わり、解散した。
「サソリ…」
「ん?」
帰ろうとする俺を名前が不安げな表情をして見ていた。
思わずドキリとした。俺にしかこんな顔を見せない可愛い奴なのだ。
ぐぅ…。
「大丈夫だ。名前はこの先も里になくてはならない人材だ。あんな話し、俺がすぐに白紙にしてやる」
「…はい」
まだ名前の表情は晴れなかった。
最悪の場合あの亜門とか言うやつを暗殺すれば良いだろうか。
大体あの男と名前では歳が離れすぎている。あんな変態に名前をくれてやるはずがない。
そもそも俺以外の奴なんて言語道断。部隊の中にも隙あらば名前に近づこうとした奴が今までも何人もいた。後日手合わせと称して相手の傀儡を木っ端微塵にして牽制してきた。
これからだってそうするさ。
気がつくと部屋には俺たち2人だけだった。日も暮れて締め切った窓のカーテンが赤く染まっていた。もう出ようと足を進めようとすると名前が俺の腕を掴んだ。
「サソリ…の、そばにこれからもいられますよね?」
あたりは静まり返って、名前の柔らかい声だけが聞こえた。
真っ直ぐ見つめる紫色の水晶に引き込まれそうだ。頬が赤いように見えるのは夕日のせいだろうか…。
名前は…俺のことをどう思っているのだろう。
大切に思ってくれている事は感じている。
だが、それは俺と同じような気持ちだろうか?
昔の約束を守ろうとしてくれているだけだとしたら?
俺はーー
小さい頃、そばにいると抱きしめて、約束してくれた時からきっと名前のことを…
「ーーあぁ、名前は俺の片腕だろう?あんな軟弱者に嫁にくれてやる気はないから安心しろ」
そう俺のーー片腕なんてもんじゃない。そう、強いて言えば俺の全てだ。そう言えたならどれほど良かったか。
俺はこの時、名前にその言葉にならぬ想いを伝えなかったことを、後に後悔した。