造花の傀儡
名前変換
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名前が帰ってこなくなって数日が経った。サソリはすぐ帰ってくるだろうと思っていた。謝って、仲直りすればまたいつものように2人でいられる。
そう思っていた。
しかし名前は自ら長期の任務を志願したようで、家には結局一度も帰ってこないまま任務に発ったようだった。
名前に会えずにもう一月が過ぎようとしていた。
サソリ自身も中忍になったと同時にその手腕を認められ傀儡部隊にすぐさま配属された。
即戦力として里の警備やら護衛の任務に忙殺されていた。
久しぶりに家に帰ってきてもやはり名前はいなかった。
名前の部屋に入り込んで1人膝を抱えた。
花も飾っていないのに、どこからかフワリと優しい匂いがした。
ーーあ、これ名前の匂いだ。名前は花みたいにいい香りがするから。
サソリは初めて花をあげたときのことを思い出した。
花を見て綺麗だと言っていた。
夕日を見て僕の髪の色と同じだと言っていた。
アイスを食べておいしいと言っていた。
寂しい時は抱きしめてくれた。
人の真似事をする人形なんかではなく…名前は誰よりも人間らしかった。とっくに気づいていたはずなのに、自分は名前に幻想を押し付けた。
それが今この現状を招いた。
ーーなんだかすごく疲れた。
待つのは昔から嫌いだ。
もう待ちくたびれた。
でも、名前はどうだろう?
自分のことを、少しでも待っていてくれているのだろうかーー?
もう、何も考えたくない。
しばらく誰も帰らぬ家でそのまま座り込んでいた。
△
サソリは任務で国境付近まで来ていた。
国境沿いでは他所の里とのいざこざが絶えない。
危険な場所も多かった。
今回は手薄になった国境警備の増援部隊として参上した。
爆音や悲鳴のような音が聞こえ、血の匂いがした。部隊は足を早めた。到着してみると今まさに霧隠れの忍たちに攻め込まれているところだった。
「全員小隊ごとに散れ!傀儡部隊は後方で援護を!」
指揮をとっているリーダーの指示をサソリは無視した。
「サソリ!戻れ!」
今も仲間が倒れ、怒号と絶叫、血潮の飛び交うこの戦場の中。サソリには現実味のない、空っぽで、無意味な映像として写っていた。
なんの感情もわかない。
唯、虚しい。
「今なら傀儡になれるのかな…」
サソリは敵陣の真ん中に五体の口寄せした傀儡と共に突っ込んだ。
全てサソリが作った傀儡で、完璧に五体を分離、かつ連携させながら操っていた。
形勢が逆転してからは早かった。
辺りは霧隠れの忍びの残骸と流れる血で染められていた。
「サソリ…なんて異端なんだ…」
傀儡部隊のメンバーは呆気にとられていた。
そして同時に畏れもした。
まだ幼い少年が1人で戦況を一気に変えてしまった。
赤い砂に飲み込まれてしまいそうなその少年は返り血を浴びて白い肌が妙に際立って見えた。
まるで傀儡のようなーー。
サソリは五体の傀儡と共に血の海に佇んでいた。
ーー人間なんてまるで花びらのように簡単に散ってしまう。あまりに脆い。なんて脆すぎるんだ。
世界が急に色褪せていく。
僕らは何のために、生きるのかーー
「サソリ危ない!!」
突然横から強い衝撃を受けた。
起爆札をつけたクナイが一瞬見えた。あとは光線と爆音で何も見えない、聞こえなくなった。
でも、その声だけはよく聞こえた。
名前ーー。
「…名前…?…ーーっ名前!!」
サソリが目を開けると名前が自分に覆いかぶさっていた。辺りには砂埃が立ちこめていた。
慌てて抱き起こして顔を見て、息が止まった。
顔半分を血が覆っていた。頭部を切ったようだ。
「うっ…」
名前は爆発の衝撃と痛みで表情を歪めていた。
「名前!すぐに治療を…っ」
「サソリ、無事ですか…?」
「何言ってるんだよ!そっちの方が重傷だろ!」
「っ大丈夫、大丈夫ですよ。少し切っただけで他にたいした怪我もないようですーーそれより、ごめんなさい…サソリの傀儡を…」
名前が横にチラリと視線を送った。
そこにはサソリの傀儡が一体、四肢は吹き飛び、胴に大きな穴が空いた状態で無残に転がっていた。
爆発する寸前、名前はチャクラ糸を傀儡に伸ばして咄嗟に盾にした。そうでなければこの程度では済まなかっただろう。
「…っ傀儡なんてどうでもいいよ!何で、僕のこと嫌いになったんじゃなかったの?何でこんな事…」
「…サソリ…」
名前はゆっくり起き上がるとその場にぺたりと座り込んで、俯くサソリに向き合った。
そして両手でサソリの頬を包むと顔を上げさせた。
「私を月隠れから逃してくれた男が最後に言っていました。いつか自分を愛してくれる人のために生きろと」
「…」
サソリは自分の視界が滲んでいくのがわかった。
「誰かに愛されなくたって…私はあなたのために生きられるなら、完璧な傀儡にだってなりたい。そう思ったんです。だから、これからもそばにいてもいいですか?」
ついにその目からは決壊した涙が溢れて頬を伝った。
ーーこんなの、あんまりだ。
初めて人を殺めたとき、一緒に戦うと言ってくれた手が自分と同じように震えていたのもわかっていた。
名前は服も、食べたいものも自分じゃ選べない子だ。
そんな名前がアカデミーに入学するのも、下忍になるのも、今こうして傀儡として扱われることも全部自分で決めた…。
それは全て自分との約束を守るためだけだった。
ーー他の誰でもない自分が、名前を傀儡たらしめるために呪いをかけてきたのだ。
「こんなの、違うっ。違う…名前っ」
頬に添えられた手を握る。
「いらない!完璧な傀儡なんて、もういらないんだ!名前がいてくれれば…それで、それ以外いらない…」
名前の紫水晶のように透き通った瞳にも涙が浮かんだ。
「服もアイスも選べないけど、美味しいって食べる名前が好きだよ。花をあげれば喜んで、枯れちゃって落ち込んでる名前が好きだよ…」
「…サソリ」
名前が額同士をコツンとくっつけた。
「家に…帰ろうよ。もう待たせたりしないから…」
「ありがとう…私も…サソリが大好きですよ。待たせてごめんなさい」
サソリは何度も頷いた。
立ち込めていた砂埃はようやく落ち着いて、2人は手を取って歩き出した。
サソリが横にいる名前を見て、それに気付いた牡丹が微笑んだ。
乾き切っていない血の海に足が縺れそうになるが、立ち止まらなかった。
そう思っていた。
しかし名前は自ら長期の任務を志願したようで、家には結局一度も帰ってこないまま任務に発ったようだった。
名前に会えずにもう一月が過ぎようとしていた。
サソリ自身も中忍になったと同時にその手腕を認められ傀儡部隊にすぐさま配属された。
即戦力として里の警備やら護衛の任務に忙殺されていた。
久しぶりに家に帰ってきてもやはり名前はいなかった。
名前の部屋に入り込んで1人膝を抱えた。
花も飾っていないのに、どこからかフワリと優しい匂いがした。
ーーあ、これ名前の匂いだ。名前は花みたいにいい香りがするから。
サソリは初めて花をあげたときのことを思い出した。
花を見て綺麗だと言っていた。
夕日を見て僕の髪の色と同じだと言っていた。
アイスを食べておいしいと言っていた。
寂しい時は抱きしめてくれた。
人の真似事をする人形なんかではなく…名前は誰よりも人間らしかった。とっくに気づいていたはずなのに、自分は名前に幻想を押し付けた。
それが今この現状を招いた。
ーーなんだかすごく疲れた。
待つのは昔から嫌いだ。
もう待ちくたびれた。
でも、名前はどうだろう?
自分のことを、少しでも待っていてくれているのだろうかーー?
もう、何も考えたくない。
しばらく誰も帰らぬ家でそのまま座り込んでいた。
△
サソリは任務で国境付近まで来ていた。
国境沿いでは他所の里とのいざこざが絶えない。
危険な場所も多かった。
今回は手薄になった国境警備の増援部隊として参上した。
爆音や悲鳴のような音が聞こえ、血の匂いがした。部隊は足を早めた。到着してみると今まさに霧隠れの忍たちに攻め込まれているところだった。
「全員小隊ごとに散れ!傀儡部隊は後方で援護を!」
指揮をとっているリーダーの指示をサソリは無視した。
「サソリ!戻れ!」
今も仲間が倒れ、怒号と絶叫、血潮の飛び交うこの戦場の中。サソリには現実味のない、空っぽで、無意味な映像として写っていた。
なんの感情もわかない。
唯、虚しい。
「今なら傀儡になれるのかな…」
サソリは敵陣の真ん中に五体の口寄せした傀儡と共に突っ込んだ。
全てサソリが作った傀儡で、完璧に五体を分離、かつ連携させながら操っていた。
形勢が逆転してからは早かった。
辺りは霧隠れの忍びの残骸と流れる血で染められていた。
「サソリ…なんて異端なんだ…」
傀儡部隊のメンバーは呆気にとられていた。
そして同時に畏れもした。
まだ幼い少年が1人で戦況を一気に変えてしまった。
赤い砂に飲み込まれてしまいそうなその少年は返り血を浴びて白い肌が妙に際立って見えた。
まるで傀儡のようなーー。
サソリは五体の傀儡と共に血の海に佇んでいた。
ーー人間なんてまるで花びらのように簡単に散ってしまう。あまりに脆い。なんて脆すぎるんだ。
世界が急に色褪せていく。
僕らは何のために、生きるのかーー
「サソリ危ない!!」
突然横から強い衝撃を受けた。
起爆札をつけたクナイが一瞬見えた。あとは光線と爆音で何も見えない、聞こえなくなった。
でも、その声だけはよく聞こえた。
名前ーー。
「…名前…?…ーーっ名前!!」
サソリが目を開けると名前が自分に覆いかぶさっていた。辺りには砂埃が立ちこめていた。
慌てて抱き起こして顔を見て、息が止まった。
顔半分を血が覆っていた。頭部を切ったようだ。
「うっ…」
名前は爆発の衝撃と痛みで表情を歪めていた。
「名前!すぐに治療を…っ」
「サソリ、無事ですか…?」
「何言ってるんだよ!そっちの方が重傷だろ!」
「っ大丈夫、大丈夫ですよ。少し切っただけで他にたいした怪我もないようですーーそれより、ごめんなさい…サソリの傀儡を…」
名前が横にチラリと視線を送った。
そこにはサソリの傀儡が一体、四肢は吹き飛び、胴に大きな穴が空いた状態で無残に転がっていた。
爆発する寸前、名前はチャクラ糸を傀儡に伸ばして咄嗟に盾にした。そうでなければこの程度では済まなかっただろう。
「…っ傀儡なんてどうでもいいよ!何で、僕のこと嫌いになったんじゃなかったの?何でこんな事…」
「…サソリ…」
名前はゆっくり起き上がるとその場にぺたりと座り込んで、俯くサソリに向き合った。
そして両手でサソリの頬を包むと顔を上げさせた。
「私を月隠れから逃してくれた男が最後に言っていました。いつか自分を愛してくれる人のために生きろと」
「…」
サソリは自分の視界が滲んでいくのがわかった。
「誰かに愛されなくたって…私はあなたのために生きられるなら、完璧な傀儡にだってなりたい。そう思ったんです。だから、これからもそばにいてもいいですか?」
ついにその目からは決壊した涙が溢れて頬を伝った。
ーーこんなの、あんまりだ。
初めて人を殺めたとき、一緒に戦うと言ってくれた手が自分と同じように震えていたのもわかっていた。
名前は服も、食べたいものも自分じゃ選べない子だ。
そんな名前がアカデミーに入学するのも、下忍になるのも、今こうして傀儡として扱われることも全部自分で決めた…。
それは全て自分との約束を守るためだけだった。
ーー他の誰でもない自分が、名前を傀儡たらしめるために呪いをかけてきたのだ。
「こんなの、違うっ。違う…名前っ」
頬に添えられた手を握る。
「いらない!完璧な傀儡なんて、もういらないんだ!名前がいてくれれば…それで、それ以外いらない…」
名前の紫水晶のように透き通った瞳にも涙が浮かんだ。
「服もアイスも選べないけど、美味しいって食べる名前が好きだよ。花をあげれば喜んで、枯れちゃって落ち込んでる名前が好きだよ…」
「…サソリ」
名前が額同士をコツンとくっつけた。
「家に…帰ろうよ。もう待たせたりしないから…」
「ありがとう…私も…サソリが大好きですよ。待たせてごめんなさい」
サソリは何度も頷いた。
立ち込めていた砂埃はようやく落ち着いて、2人は手を取って歩き出した。
サソリが横にいる名前を見て、それに気付いた牡丹が微笑んだ。
乾き切っていない血の海に足が縺れそうになるが、立ち止まらなかった。