サソリが家に帰ると、そこには真っ暗な部屋に誰もおらず…名前はいなかった。
次の日の朝になっても帰ってこなかった。
朝帰宅してきたチヨが驚いた様子でサソリに話した。

「名前が昨夜月隠れの里に関する報告書を読みたいと言って、本部まで来ておったぞ」
「！」
「書庫に一晩中篭っておったようだが…サソリ、何か知っておるか？」
サソリは自分が原因なのだろうとは思ったが、何と説明して良よいかわからず首を振った。
「…一体どうなっとるんじゃーーまァ良い、そのうち帰ってくるじゃろう」
サソリはモヤモヤとした、なんとも言えない気分でいた。
そんなサソリを察してかチヨは早々に会話を終了し、朝食の支度にとりかかった。

サソリは傀儡整備に使っている部屋へ向かった。
そこには製作中だった傀儡が横たわっている。
名前のために作っていたのだ。
風遁の忍術が得意な名前のために、名前のチャクラに反応して傀儡からも風遁の術が発動できるように調整中だった。
形は名前自身と連携して動きやすいよう人に似せて作った。

「…」

サソリは名前が走り去っていくときの顔を見た。
泣いていた。
名前の笑顔を見たのも、涙を見たのも昨日が初めてだった。

傷付けたかったわけではない。
ただ名前は自分にとって永遠の象徴だった。
両親が死んで、寂しさから作った2人の傀儡はやはり紛い物でしかない。孤独は癒えずより深い淀みに引き摺り込まれていった。
そんな時、チヨから昔初代風影が“人傀儡”なるものを研究していたと、話をされたのを思い出した。
自分がいつか朽ちることのない体、体と同じく無機質な感情を手に入れ完璧な傀儡となることが幼いサソリには救いのように感じた。
名前はそんな自分の道標であったのに。

名前の美しい笑顔は、綺麗であまりに儚かった。
そばにいると言って抱きしめてくれた名前すら、永遠ではないのだと気付かされてしまった。

「名前…」

名前の泣き顔が頭から離れなかった。
もう二度と自分には笑いかけてくれないのだろうか…。