サカズキ×ボルサリーノ
クザンが抜けた日からサカズキは可笑しくなった。
以前から『徹底的な正義』を信念に掲げていたが、最近はその想いに拍車が掛かっている。
それはもはや『強迫的』であり、本人の首を絞めつけているように見えた。
「サカズキぃ。そろそろ休まねぇと身体壊しちまうよぉ?」
もう半年は休みなく働いていた。
部下やおつるが休むよう言っているが、全くもって耳を貸さなかった。
睡眠時間が少ないのか妙に殺気立っている。
「……喧しい。」
「倒れたら意味ねぇだろうに。」
「…倒れん。」
「わかんねぇだろぉ〜…。ほら、目の下にも隈が…。」
す…(手を伸ばす)
「あーーーじゃかぁしい!!!!」
顔のすぐ横を溶岩が通る。
後ろの壁がボコっと溶ける音がした。
「帰れボルサリーノ。次は当てるぞ。」
「わっしに?面白い冗談だねぇサカズキ。」
ははっと軽く笑うとサカズキの目の前にパッと移動した。
その表情に笑顔はない。
「今の君は正直見てられねぇなぁ。どうしたぁ?何を焦ってる。」
「…。」
「このままだと自滅するよぉ?自分でもわかってんじゃねぇのか?」
ボコボコと音を立てて流れ出ていた溶岩が、静かに腕の形へと戻っていく。
しばらくの沈黙の後サカズキは重い口を開き始めた。
「海賊を根絶やしにするためにゃあ現状を変えないけん…。わしが元帥になったからにゃ今まで以上に徹底せんと…。」
「そうだねぇ。」
ガリッと噛み締めた唇から赤い溶岩が流れる。
「クザンがどう動くかも分からん。最悪麦わらの味方になるかもしれん。わしらと同等の力を持っちょるやつが敵側に行くんは一大事じゃ。」
俯くサカズキ。
「信念は違えど…同じ正義の名の元にある同志じゃと思っちょった。」
怒りか、はたまた悲しみか…声が少し震えていた。
先程までの殺気はもうなかった。
顔を伏せたまま続ける。
「……もう誰も信用ならん。」
「わっしもかい?」
「おどれなぞ一番信用ならん。どっちつかずの正義が。」
「お〜…。」
サカズキの応えにボルサリーノは顎に手を当て少し考える仕草をする。
「確かにどっちの正義もアリだと思ってるからねぇ〜…。天秤にかけた所で同じ重さだ。」
「…。」
「でも〜…ん〜…個人的にぃサカズキが好きだからぁ〜……。」
「…。」
「ず〜っと味方でいてやりてぇんだよぉ。」
ふ…っと力ない笑いが響く。
伏せていた顔をあげ、ボルサリーノを真っ直ぐと見つめた。
僅かだが、表情が柔らいでいる。
「やはり信用ならん。」
「まぁ、本音は面倒くさいってだけだけどねぇ。」
「ふん。じゃろうな。」
机の上の書類を集めると、ファイルにまとめ出した。
どうしたのかとボルサリーノは首をかしげる。
「……色々言うたら腹が減った。」
「ご飯?わっしもご一緒していいかい?」
「勝手にせぇ。」
サカズキの「勝手にせぇ」は「良い」の合図であることを知っている。
腹が減った事に意識がいく程度には気分が晴れたのだろうか。
「どこに行くんだい?」
「美味い天丼屋がある。」
「おぉー!良いねぇ♬︎」
「本部の近くにあるけぇたまに寄るんじゃ。」
少しばかり元気が戻ったサカズキの様子を見て、良かったと目を細める。
その視線に気付き「なんじゃい」と眉をしかめられた。
「いやぁ。天丼楽しみだなぁって思ってたんだよぉ。」
「ほうか。」
ー…
暗い夜道の先に灯りが見える。
天丼屋だ。いい匂いが鼻をついた。
店の前でふとサカズキが歩を止める。
「飯食ったら帰って寝る。」
「え?」
「自滅しかねんのは分かっとった。お前が止めてくれにゃあわしは……。」
そこで言葉を切ると、バツの悪そうな顔をしそっぽを向いた。
数秒後、言いづらそうに口をもごつかせ、サカズキがポツリと呟いた。
「…………恩に着る。」
今まで聞いたことないくらい小さい声。
照れているのかボルサリーノの方を見ることなく吐き捨てるように言った。
ただ、ボルサリーノの耳には特別鮮明に聞こえたのだ。
「おぉ〜…。」
若い頃に置き忘れたむず痒い感覚。
「…悪くねぇなぁ。」
天丼屋の暖簾を潜る親友の背中を見ながら、静かに言葉をこぼした。
以前から『徹底的な正義』を信念に掲げていたが、最近はその想いに拍車が掛かっている。
それはもはや『強迫的』であり、本人の首を絞めつけているように見えた。
「サカズキぃ。そろそろ休まねぇと身体壊しちまうよぉ?」
もう半年は休みなく働いていた。
部下やおつるが休むよう言っているが、全くもって耳を貸さなかった。
睡眠時間が少ないのか妙に殺気立っている。
「……喧しい。」
「倒れたら意味ねぇだろうに。」
「…倒れん。」
「わかんねぇだろぉ〜…。ほら、目の下にも隈が…。」
す…(手を伸ばす)
「あーーーじゃかぁしい!!!!」
顔のすぐ横を溶岩が通る。
後ろの壁がボコっと溶ける音がした。
「帰れボルサリーノ。次は当てるぞ。」
「わっしに?面白い冗談だねぇサカズキ。」
ははっと軽く笑うとサカズキの目の前にパッと移動した。
その表情に笑顔はない。
「今の君は正直見てられねぇなぁ。どうしたぁ?何を焦ってる。」
「…。」
「このままだと自滅するよぉ?自分でもわかってんじゃねぇのか?」
ボコボコと音を立てて流れ出ていた溶岩が、静かに腕の形へと戻っていく。
しばらくの沈黙の後サカズキは重い口を開き始めた。
「海賊を根絶やしにするためにゃあ現状を変えないけん…。わしが元帥になったからにゃ今まで以上に徹底せんと…。」
「そうだねぇ。」
ガリッと噛み締めた唇から赤い溶岩が流れる。
「クザンがどう動くかも分からん。最悪麦わらの味方になるかもしれん。わしらと同等の力を持っちょるやつが敵側に行くんは一大事じゃ。」
俯くサカズキ。
「信念は違えど…同じ正義の名の元にある同志じゃと思っちょった。」
怒りか、はたまた悲しみか…声が少し震えていた。
先程までの殺気はもうなかった。
顔を伏せたまま続ける。
「……もう誰も信用ならん。」
「わっしもかい?」
「おどれなぞ一番信用ならん。どっちつかずの正義が。」
「お〜…。」
サカズキの応えにボルサリーノは顎に手を当て少し考える仕草をする。
「確かにどっちの正義もアリだと思ってるからねぇ〜…。天秤にかけた所で同じ重さだ。」
「…。」
「でも〜…ん〜…個人的にぃサカズキが好きだからぁ〜……。」
「…。」
「ず〜っと味方でいてやりてぇんだよぉ。」
ふ…っと力ない笑いが響く。
伏せていた顔をあげ、ボルサリーノを真っ直ぐと見つめた。
僅かだが、表情が柔らいでいる。
「やはり信用ならん。」
「まぁ、本音は面倒くさいってだけだけどねぇ。」
「ふん。じゃろうな。」
机の上の書類を集めると、ファイルにまとめ出した。
どうしたのかとボルサリーノは首をかしげる。
「……色々言うたら腹が減った。」
「ご飯?わっしもご一緒していいかい?」
「勝手にせぇ。」
サカズキの「勝手にせぇ」は「良い」の合図であることを知っている。
腹が減った事に意識がいく程度には気分が晴れたのだろうか。
「どこに行くんだい?」
「美味い天丼屋がある。」
「おぉー!良いねぇ♬︎」
「本部の近くにあるけぇたまに寄るんじゃ。」
少しばかり元気が戻ったサカズキの様子を見て、良かったと目を細める。
その視線に気付き「なんじゃい」と眉をしかめられた。
「いやぁ。天丼楽しみだなぁって思ってたんだよぉ。」
「ほうか。」
ー…
暗い夜道の先に灯りが見える。
天丼屋だ。いい匂いが鼻をついた。
店の前でふとサカズキが歩を止める。
「飯食ったら帰って寝る。」
「え?」
「自滅しかねんのは分かっとった。お前が止めてくれにゃあわしは……。」
そこで言葉を切ると、バツの悪そうな顔をしそっぽを向いた。
数秒後、言いづらそうに口をもごつかせ、サカズキがポツリと呟いた。
「…………恩に着る。」
今まで聞いたことないくらい小さい声。
照れているのかボルサリーノの方を見ることなく吐き捨てるように言った。
ただ、ボルサリーノの耳には特別鮮明に聞こえたのだ。
「おぉ〜…。」
若い頃に置き忘れたむず痒い感覚。
「…悪くねぇなぁ。」
天丼屋の暖簾を潜る親友の背中を見ながら、静かに言葉をこぼした。
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