左手のゆびきり
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ただ、
なんてことはない。
壬生寺の門をくぐり、
大きな桜の木を、ただ眺めるだけ。
あの修学旅行で何かに惹かれたかといったら、特段そういうことはないんだけど。
来なくちゃいけない、気がして。
本当にぼーっと桜の木を見上げていた、
私に。
「…あんた、花弁がついてるぞ」
ふいに少し上から聞こえた声は、何故かとても懐かしく。
「―――待ってた」
勝手に口を突いて出る言葉、
懐かしいにおい、
あなたの、
いっぱいの思い出。
一気に湧き上がってくる。
「…春?」
彼は私の名前を呼んでから、
その名前を知っていることを不思議がるように口許を押さえる、けど。
「斎藤さん…っ!!」
私もどこからともなく口を突いたその名を呼んだ。
何もかも。
あの日々が、胸に戻ってくる。
「待って、いました…!」
人目も憚らず、私は彼に抱きつく。
「会いたかった…!」
ずっと繋いでたみたいに、
左手の小指が、あたたかい。
*end
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