手の鳴る方へ
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「…誰だ」
……初対面にも関わらず、物凄い不機嫌そうに言い放つ、その人。
『副長』と呼んでいたから、きっと偉いんだろうけど…何かとぶっきらぼうな人にしか会わないのは、何故だろうか。
私が何とも言えず黙っていると、目の前の彼がすぐに答えた。
「花見をしていたら、現れました」
―――そうなんだ。
っていうかあれ、花見だったの?
と、取り敢えず自己紹介だ。
「百瀬春です」
「…何でも連れの者とはぐれてしまい、土地勘もない様で」
彼の言葉に、部屋の主は一層眉の根を寄せる。
自分が「面倒くさい事案」であることをひしひしと感じさせられてしまうが、今は我慢するしかない。彼らにとってはその通りなのだ。
「なんつーもんを拾ってきたんだ…」
「申し訳ありません」
ぼそっと呟かれた悪態にも、彼は生真面目に答える。
「ごっ…ごめんなさい!」
私もあわてて大きく頭を下げた。
部屋の主は、小さく舌打ちをして言った。
「お前、本当に何もわからねえんだよな?」
「と…江戸から、来たので」
危ない危ない、
余計なことを言わないように気を付けながら、なんとか返事をする。
圧がすごい。
「………仕方ねえ、まあこの身なりならすぐ見つかるだろうよ。それまでの間だ、預かってやる」
「あ…っりがとうございます!!」
私には瞬時にこの二人が神に見えた。
そしてこの豪華な着物にも感謝をせざるを得ない。
でも、そんなにおいそれと人一人預かるのは、どういう時代なんだというか、慈善事業なんだろうか。
「あの…」
恐る恐る声を出すと、二人からじろり、視線が飛んできた。
「ここは、なんのお屋敷なんでしょうか?」
私が言うと、その部屋はしんと静まり返った。
え、私なんかいけないこと言った?
「…てめえ、馬鹿にしてんのか」
え?
やっぱり、いけないこと言った?
「本当にわからなくて…!」
焦ってちょっとだけ彼の背中に隠れると、その人はしばらく私を睨み付けた後、やがて嘘ではないとわかったのか言った。
「此処は京、新選組の屯所だ」
はあ…
はぁ?
「新選組!?」
いや、ないない。
有り得ない。
冗談にしては度が過ぎている。
「新選組ってあの…あの新選組!?」
「…他にどの新選組があるんだ」
くらり、と目眩さえ覚えた。
よりにもよって、なんていうところに来てしまったんだろう。
思わず頭を抱える私を見て、美男子は嘆息した。
「…本当に、なんつー拾い物してきやがった、斎藤」
「捨てるに捨てれぬ状況でした」
捨てるって…私は物ですか。
斎藤、と呼ばれた彼はどこまでも淡々と話す。
「おいお前」
「っう、は、はい…」
彼は何か言葉を続けるでもなく立ち上がり、怯える私に近づいて来る。
ひいいいい…
声にならない声を心の中で上げながら、私はぎゅっと目を瞑った。
痛いくらいの視線を頭のてっぺんから足の先まで感じる。
「…お前、江戸の百瀬って言ったよな?」
問われて私は薄ーく目を開ける。
そして頷く。
「……こんな姫君のいる家なんか、あったか…?」
彼はぼやくように言って。
「斎藤。すまないが、これは幹部連中で話し合う」
「御意」
『斎藤さん』は簡潔に答えると、また私に「ついてこい」と言い、屋敷の廊下を進んでいった。