手の鳴る方へ
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夕食後。
また廊下を斎藤さんの背中について歩く。
「…あの」
私はつい綻んだ顔のまま、斎藤さんに言った。
「ありがとうございました…」
考えすぎかもしれないけど、
斎藤さんはきっと、私が困らないように、みんなから一番遠いあの席にしてくれたんじゃないかって思う。
「………いや、悪かった」
それだけ答えると、斎藤さんは私を先ほどとは別の部屋に案内した。
「これに着替えてくれ」
何処かから持ってきた軽そうな服を、ぽんっと寄越す。
「…外にいる。何かあったら呼べ」
「はい…っ!」
威勢よく答えたもののーーー
早速この着物の帯の解き方から袴の着方まで、何から何まで一緒について教えることになるとは、斎藤さんも思わなかっただろう。
「あんた…本当に未来から来たんだな」
まるで宇宙人を見るような目で見られて、心でこっそり泣く。
「すみません…」
「…構わん」
ぶっきらぼう、かと思ったら、すごく優しくて。
「ありがとう、ございます」
謝るよりも、そう言いたくなってしまう人。
「…あれ?」
なんとかサラシを巻き始めたとき、私はつい声を上げた。
それは、丁度心臓の上あたり、だろうか。
小さな痣というか、痣というよりはタトゥーのようなものができていることに気づいた。
「……どうかしたか」
後ろを向いてくれている斎藤さんが、そのまま声だけで聞いてきた。
「…いえ…あの、多分なんでも…」
紅い、それも何かの柄のような跡。
こんなの、昨日までなかったのに。
「ごっ、ごめんなさい!ちょっと痣ができてて…それだけです!」
静かに座っている斎藤さんの背中にそう答えて、私は時間が掛かりすぎな着替えを続けるのだった。