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「…行ってきます」
今まさに表に出ようとする私を見て、山崎さんは少なからず驚いたようだった。
「いや、それは…!その、今…確かに君に頼もうと思っ……」
目を白黒させて、閉口する。
「斎藤さんのところへ行ってきます」
例え、やれダメだ何だと言われても聞く気もなかった。
けれど逆に山崎さんは、何かしらの安堵の息を吐いた。
「助かる。ーーー女子の君にこんなことを頼むのは…真に申し訳ないが…」
「…え、いいんですか?」
「いい、というか…正しく今、その伝令を頼もうと…」
お互い、拒まれる前提でいたのが、何故か合致してしまったという空気。
私はつい苦笑する。
「…なんて、伝えればいいですか?」
伝える相手の安否さえわからないまま、聞く。
わからないけれど、
信じている。
私も、山崎さんも。
「一度戻って、援護をと…」
「わかりました」
振り向きもできず、私は戸口に立った。
「危険、だが…引き受けて、くれるのか…?」
「………」
頼まれなくても、
私はここを飛び出していたけれど。
今度こそ戸口を開いて、私は駆け出した。
「おい、見ろ!」
「随分ちびっこい奴が飛び出して来たじゃねえか」
「新選組も残す弾は少な――」
斎藤さんの通った道。
残党が色めき立つ、
その首を、跳ねて、走る。
「な、なんだあいつ――」
「やめろ!退け!」
「うっ、……ぐ…」
私、絶対に。
「お、おい弾…当たってんのに、効いてねえぞ…うぐあっ」
「やめろ、手を出したら―――」
絶対に、
あなたに。
どれくらい駆けたかわからない。
却って静か過ぎる程の場所で、やっと私の足は止まった。
靄がかかっていたような視界がはっきりとする、
そこに映るのは、間違いなく、
その人の姿。
「斎藤、さんっ…!」
「……おや」
「春…ッ、何故…!」
「これは…驚きました」
ぜえぜえと、荒い息に混じる声こそが斎藤さんのもの。
対してその人影は、揺らぐことなく立っていた。
「また貴女と相見えるとは…鬼の姫」
「随分と…余裕だな…っ!」
「……おっと」
斎藤さんは立ち姿こそふらついているものの、鮮やかな一撃を放つ。
しかし。
「甘い」
「…く…ッ」
震える手で、じりじりと刀の柄を握る。
また意識が飛びそうだった。
ここに来るまでの道も、よく覚えていない。
気づけば斎藤さんがいて、
そして私は全身べたべたとした血にまみれていた。
「齊藤さん、早く戻ってあげてください」
『鬼』。
だったら何なのだ。
「天霧さん、私のこと、鬼の姫って言いましたよね?」
「……如何にも」
天霧、と名乗った彼の赤い髪が、みるみる色素を失っていく。
「この姿を見せるのは久し振りです」
ぴくりとも表情は動かさず、天霧は言った。
金色に光る目、真っ白な髪、
角。
「ーーー春!!」
「いいから、早く行ってください!!」
また、身体が燃えるように熱い。
「始めましょう、天霧さん」
私は刀の柄と鞘に手を遣る、
が。
「…いや、止めましょう」
その言葉と共に、天霧さんの姿は元に戻る。
そして、滔々と話し始めた。