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「やだっ…一緒に行きます、私…!」
「駄目だ。ここで――」
「私だって戦えます!だから!」
勘とかそういうのが鋭くない私でもわかる。
こんなの、死にに行こうとしてるだけだって。
「わかっている」
「じゃあ!!」
「だからこそ、ここで皆と戦ってほしい」
薄く微笑んで、そうやって。
「っ……!」
「行ってくる」
もう、
私になんか止められないんだ。
「―――わかりました…っ必ず!」
続きが声にならない。
必ず。
斎藤さんに見繕ってもらった刀の柄をしっかりと握り締めて、私は私の道を。
「源さん!私は裏口を守ります、何か起きたらすぐに呼んで下さい!」
「ああ…だが、女の子の君を危険な目に遭わせるのは避けたいねえ」
「大丈夫です、私、島原でも男に間違われたんですから!」
「それは頼もしい。それじゃ、私の背中は君に任せよう」
「大船に乗ったつもりで、ですよ源さん!」
微笑む、私の大好きな井上さんの優しい笑顔。
出来ればこんな状況じゃなくて、賑やかな屯所のお勝手で見ていたい、笑顔。
私、取り戻したい。
そう、大丈夫。
生きて、必ず。
ぱぁん、と銃声がする度に、斎藤さんの向かった先へ飛び出したくなる気分だった。
嫌な汗が滲む。
「……っ源さん!?」
「ああ、大丈夫だ!」
どごぉん、と物凄い音は時々、建物を激しく揺らす。
一体いつになったら…というか、鳴り止むことなどあるんだろうか。
このまま崩れて、下敷きになるか。
それとも砲弾が直撃して死ぬんだろうか。
これが最後なのかな。
もう、皆とは会えない。
散り散りの私たちはここで、さよならなのかも知れない。
ーーー楽しかった、な。
既に走馬灯のようなものが目蓋に浮かんでいる。
裏口に人の声。
もうだめなんだ。
最後の悪あがきにと剣を握りしめ、いつ飛びかかろうか……タイミングを伺っていた、そのとき。
「ということだ、百瀬君!」
ぽんと肩を叩かれて、私は文字通り飛び上がった。
「―――――っ、山崎さん!?」
私がクセモノだと思い込んでいた人は、なんと山崎さんだった。
「何を今更驚いている!そんなことよりも、今の話は聞いて―――」
「いえ、全く…」
答えると、はあ、と嘆息。
何もそんなわざとらしくしなくてもいいじゃない。
「だから!とにかく夜になったら再度出発する!」
「はいはい!私は今忙しいんです!」
「なっ…!」
「ははっ、百瀬君はそうでなくちゃねえ」
「井上さんも甘すぎる…!いいか、もう一度説明するぞ!」
ほとんど聞いていないのは平常運転。
山崎さんは夜になったらまた出発する旨、そして伝令の為にだとか敵陣営だとか何だとかよくわからない単語と共に説明書のように語った。
「わかったわかった!行ってきます!」
山崎さんには池田屋の一件で無理矢理走らされた恨みがある。
私も冷たくなるというものだ。
適当に返すと不満の声が返ってきたが、気にせず私はまた扉のそばで静かに身構えた。
けれどーーー
夜を待たずして、夕方には既に危うさが色濃く辺りを包んでいた。
鳴り止むことのない砲撃の音、
誰一人戻ることのない幹部の皆、
暮れる、日。
「………っ」
余計なことを考えるのはやめよう、
そう思っても時間が経つ程に思い浮かべるのは、
斎藤さんのことだ。
絶えず鳴り響く大砲の音に、
もし。
それともさっきの銃撃のーーー
嫌な想像に、一度瞼を閉じて頭を振る。
額にじわりと染み出た脂汗を、袖口で拭った。
「今のうちに崩せ!」
ごく近くで鳴る銃の音。
このままじゃ。
「行かなきゃ…」
無意識に口にして立ち上がるのと、山崎さんに呼ばれるのはほぼ同時だった。