桜の約束
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また、春が来た。
桜の約束
済まないが今日は話し合いがあるから、と言われ一人もそもそと部屋での食事を終えた私は、皆の食器と一緒にそれを洗って襷を解きながら部屋へと向かっていた。
と、そこに。
「あら貴方…、百瀬くん、でしたっけ?」
通り掛かったのは、伊東甲子太郎という人だった。
新選組の参謀を務めているらしく、私は女だとバレる危険があるのであまり近づかないように言われていたから聞いた話だけど、どうも隊の人たちには良く思われていないらしい。
「なんでしょう」
出来る限り低い声で私は問うた。
すると伊東さんは含意ある口調で私に言った。
「あなたはこんなに重要な話し合いにも参加なさいませんのね」と。
ちょっとイラッとした私は、失礼しますと告げて広間へ向かった。
―――何か、よくないことがあったような気がする。
「しかしあの二人が抜けるとは―――」
襖に駆け寄った私の耳に聞こえてきたのは、土方さんのそんな言葉だった。
―――抜ける?
思わずその場に立ち竦みそうになる足を、立ち聞きではいけないと無理矢理動かして、襖に手を掛ける。
す、と襖が開いて、皆は少し驚いたような顔で私を見ていた。
「お早う、ございます」
早く本題を促そうとする口をどうにかつぐんで、私は挨拶をする。
だが返ってきたのは浮かない返事のみだった。
「…何か、あったんですか」
私は思い切ってそう訊ねた。
私の知ってはいけないことなら追い返される。知ってもいいことなら教えてくれるだろう。
そして―――
私は後者、だった。
「伊東さんが新選組を抜けて御陵衛士という組織を作るそうだ」
しとり、落ち着いた声で私に言い聞かせるように土方さんは告げる。
いや、わかっていたんだ、この部屋に入ったときから斎藤さんがいないことくらい。
最近私を近づけないようにしてたのも、わかっていたんだ。
「さしあたって、斎藤と平助も伊東さんについていくことになった」
長い沈黙が訪れる。
皆、私の反応を気遣わしげに見ていることがわかった。
「……どこに、いますか」
私の唇が開いた。
「斎藤さんは…どこにいますか?」
「…斎藤なら中庭だ」
後になってみれば平助君はそっちのけな自分は如何なものかと思うが、そのときの私の頭には斎藤さんのことしかなかった。
私は礼も言い忘れて、踵を返し駆け出した。