ある日の白い吐息
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「晦日というのは苦手だ」
白い吐息と共に、彼は溢した。
ある日の白い吐息
「どうひてでふか?」
熱々のお饅頭を頬張りながら、私は聞いた。
茶店の外の椅子―――現代でいうテラスみたいなそれに二人並んで腰掛けて、私たちはぼんやりと行き過ぎる人々を眺めていた。
行き交う人々の傘の花。
真っ白に染まった地面。
絶え間なく降る、白い粒。
「…意味もなく忙しない」
目を閉じて、まるでその雑踏から逃げるように斎藤さんは言う。
「師も走る月と言うほどだからな」
ふ、と笑う顔は、お饅頭と共に私の心をあったかくしてくれる。
私は冬が好きだ。
斎藤さんはそれを知っているだろうか。
私のことを知っているだろうか。
「……お前は冬が好きだろう」
まるで私の頭の中を見透かすように、ナイスタイミングで斎藤さんは言う。
「なんでわかったんですか?」
「こんなに寒い中、俺に付き添って表で饅頭を食べているからだ」
なるほど。
「それじゃあ斎藤さんは晦日以外の冬が好きなんですね」
私がさらりと言うと、斎藤さんは少し目を瞠って、それからふと笑った。
「………名答だ」
斎藤さんが笑うと、くすぐったい。
「…買い出しも済んだし、そろそろ行きましょうか」
「ああ」
私たちは席を立って家路へ向かう。
雪に足をとられないように、ゆっくりと。
「……あ、そういえば」
私は不意に、前々から疑問に思っていたことを思い出した。
「この時代って、誕生日ってないんですか?」
すると斎藤さんは怪訝そうな顔で私を見下ろす。
「たんじょうび…?」
この反応は、知らないな。
「生まれた日のことですよ。皆でお祝いするんです」
「ほう」
「けど」
もう長らくこっちに居るというのに、一人たりとも誕生日会みたいなのをやったことがないし、おめでとうの言葉すら聞いたことがない。
「この時代には」
「ないな。そういう習わしは」
なんて勿体ないのだろう。
「それじゃあ、皆自分の生まれた日を知らないんですか?」
私が問うと、斎藤さんは頷きそうになって―――
それを途中で止めた。
「…俺は、知っているな」
「へえ」
意外すぎる。
だって斎藤さんは一番そういうことに無関心っぽいから。
けれど、続いた言葉に私は納得しきりだった。
「俺は元日に生まれた」
だから、『はじめ』だ。
少し照れ臭そうに顔を背ける、ちらっと見えたうなじが綺麗。
「それって…すごいじゃないですか!」
「…お前の時代ではそうなのか?」
私はこくこくと頷く。
生憎ながらこの時代では皆が元日生まれの様なものだからな、と言われ私は、それじゃ意味がないのに、と答える。
「せっかくだからお節料理は奮発させて貰います」
「…ああ、楽しみにしている」
ねえ、斎藤さん。
指折り数えていた日は、あなたも、同じだったかな。