手の鳴る方へ
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頭の中に渦巻く色々な謎のうち、とにかく私はその中の一つを問いかける。
「ここって…どこですか?」
「……壬生寺だが」
あ。
若干不機嫌そうに答えられ、私は何か間違えたことを聞いてしまったのだと察した。
そもそも壬生寺なのはわかっている。
そうじゃなくて、そうじゃなくて。
「えっと…私の友達を見ませんでしたか!?私と同じ制服―――」
着ていたベストを強調するように掴もうとして、私はそこでやっと、気づいた。
「……なにこの服……」
掴もうとしたはずのウールのベストは手に触れず、
つやつやとした手触りのなにかを、私は撫でていた。
「ちょっ…なにこれ!?え!?」
自分の身体を見下ろすと、深紅に刺繍が散った、一目見ても上等な布が私の身体を覆っていた。
「……あんた、大丈夫か」
ほぼ溜め息と一緒に吐き出された彼の言葉も、今はどうでもいい。
ただ呆然と、私は自分の現在の全てに絶望するしかなかった。
「………」
頭が真っ白になる。
夢なら早く覚めてほしい。
どれくらい、そうしていただろうか。
「…あんた、どっから来たんだ」
再び呆れたような声に問われて、私はようやくその人の存在を思い出した。
「東京…っ東京です!」
藁にも縋る思いで、なんとか答える、けれど。
見上げた先の整った顔は、静かに眉根を寄せた。
「えっと…」
着物姿の、その人。
同じく何故か着物姿の、私。
「江戸……ですか…?」
笑い飛ばしてくれたら、まだ良かったのに。
「俺に聞くな」
さも当然のように言って踵を返そうとする彼に、私は縋り付くしかなかったのだ。
「あの…ひとつ、お訊ねしてもいいですか?」
私はなるべく彼を刺激しないよう、慎重に訊いた。
「何だ」
「今って、何年ですか?」
お願いします、悪い夢でありますように。
しかしそんな願いも虚しく、
「元治元年だが」
私は再び気を失いそうになった。