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「…え」
私は噂の島原に着いた途端、間抜けな声を上げた。
「なにここ」
さぞかし楽しげな年中お祭りです風景を期待していた私は。
あまりの艶やかさに目が回りそうになった。
「…お前が行くと言ったんだ」
そんな…殺生な、斎藤さん。
行き交うのは派手な着物を纏ったお姉さん、お姉さん、お姉さんにお兄さん。
「ひいぃぃいい」
「奇怪な声を出すな、春」
私は思わず斎藤さんのそう高くない背中に隠れる。
「…だから言ったのだ」
「こんな場所とは言ってません!」
「言えるわけがないだろう…」
え、なんでよ。
そこ重要だよ、言っといてよ。
しかし今さら後の祭りである。
私は流されるまま角屋というところに入っていった。
「乾杯!」
近藤さんの掛け声で、皆が盃を掲げて一気に飲み干す。
私はほんのちょっと注いだお酒を唇につけた。
ちらり、斎藤さんを見遣るとかなり綺麗なお姉さんに早くも次の一杯を注いでもらっている。
「なんや斎藤はん、近頃めっきり逢いに来てくれまへんかって、寂しおす」
「だよね一君。お気に入りの花鞠ちゃんに逢いに来なくなったって、どういう心境の変化?」
「お、おきっ…!!」
お気に入り……。
「ちがっ!お気に入り、などでは…」
「あら、違いましたのん?いけずなお方」
「そ、そうではなくて…!」
…私は少なからず斎藤さんを軽蔑した。
その視線に気付いたのか、斎藤さんはあわあわと盃を弄ぶ。
私はずいぶん早いピッチで呑んでいる皆の様子を眺めることに徹していた。
―――と、そのとき。
「あんさん、綺麗なお方やねえ。見いひん顔やけど色男やわあ」
私の傍に、ひとりの綺麗な女の人が腰掛けていた。
色男?
ぱっと後ろを振り返ってみるけれど、そこには誰もいない。
「いややわぁ、あんさんのことやて」
…え。
私?
「お酒は飲みまへんの?」
「あ…飲めないので」
「あらかわいい。女子みたいやわあ、ほんならわてと遊ばへん?」
ひいぃぃいいいい!!
ちょっ、待っ!!そこ、乳触ってるお姉さん!!さらし!!巻いてるけど!!
「…どきどきしてはるなぁ」
流し目で…見ないで下さい…。
私が女郎さんに捕まって慌てふためいている様子を見て、沖田さんが吹き出した。
そして隣の斎藤さんはと言うと。
「花毬さん、その…俺は…」
「なん?斎藤はんならいつでもお待ちしてますよって」
「そ、そうではなくて…!」
―――誤魔化すようにがばがばとお酒を呑んでいる。
そして耳まで真っ赤になって―――
なんだか居たたまれなくなった私は、
「失礼します」と言って席を立ったのだけど。
「…春、待…っ」
斎藤さんがぐわ、っと私の腕を掴んだ、
拍子に。
どさっ、という音と共に、
私は畳に押し付けられていた。
ポカーン。
そんな効果音が似合いそうな雰囲気が辺りに漂って、刹那。
「あらぁ、斎藤はん…そういうことやったのね」
全て察した、という表情で頷く花毬さんの姿が、私の視界の隅に映った。
ええと、つまり。
私は男装で、女顔の隊士だと思われていて。
斎藤さんは男で、そんな私を押し倒していて。
つまり。
「ちっ…」
「違います!!」
私たちはがばっと離れて声を揃えたけれど、ほほほと笑われてあしらわれてしまい―――
「それなら仕方ないわあ」
つまり、斎藤さんは『そういう趣味のむっつりさん』というイメージが、定着してしまったのだった。