遊郭
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恥ずかしながらあの日の夜、私はいつか私が彼にしたように斎藤さんに手を握ってもらいながら眠りに就いた。
彼のごつごつとした少し大きな手は、言い様もなく安心する。
そうして暑い夏が過ぎ、秋をむかえて。
暑さが和らぎ始めた折に、その事件は起こった。
遊郭
「さんじょおーはし?」
「そうだ」
斎藤さんは短く答えると、呆れたように溜め息を吐いた。
制札を抜くなど馬鹿な真似を、と口の中で呟く。
聞き齧った話によると、朝敵とされた長州藩士がそのことを知らしめる制札とやらを引き抜いて鴨川に捨てたらしい、二回も。
私の時代で言えばそんなこと、で済むような話だがこの時代の人にとっては重要なことらしかった。
「今日こそ捕えられるやも知れんな」
斎藤さんは薄く笑んで言った。
「お手柄ですね」
「ああ。今日の当番は左之の組だがな」
そこで会話は止まる。
こういう沈黙は多いんだけど、嫌いじゃない。
そうして―――
原田さんは無事浪士を捕え、報償金で皆にご馳走したいと言い出したのだけど。
「春、お前はどうするんだ?」
「へ?」
「行くか行かねえか」
原田さんはにいっと笑って私に問い掛けた。
「えっと…どこに行くんですか?」
私が答えると、彼はぽかんとして、それから再び笑った。
「島原だな」
………
し・ま・ば・ら!!
「行きます!!」
このときの私の目はさぞかし爛々としていたと思う。
「お?お前、島原が何する場所か知ってんのか?」
そんなのあたぼうである。
私は威勢よく答えた。
「遊ぶ場所です!!」
私が言った途端、がたん、と大きな音が鳴った。
「さ…斎藤さん?」
彼は襖のへりに足をつまづかせたらしく、珍しく体勢を崩していた。
「……ならん」
……格好つけて言ってもコケてるよ、お兄さん。
ともかくこんなチャンスは二度とないかも知れない。
斎藤さんなんぞに邪魔されたら堪ったもんじゃないのだ。
「原田さん、お願い致します!!私も島原に連れて行って下さい!!」
私は斎藤さんの度重なる制止を振り払って―――
念願の島原へ、行くことになった。