黄昏、来りて
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「…じょうらく?」
「うん」
「にじょうじょう?」
「うん」
「………」
黄昏、来たりて
「…からかわないでくれます?」
「あはっ、ごめんごめん。だって君、何にも知らないんだもん」
沖田さんは悪びれもせず笑った。
「…すみません、勉強不足で」
私はどうにか受け流す。
未来には、将軍も幕府もない。
けれどそのことを教えたからと言って、今の世が、そして新選組がどうこうなる訳ではないのだとわかっていた。
それとなく気づいている沖田さんもそういうことを絶対に聞こうとしなかったから、私は幾分気が楽だった。
「上洛っていうのはね、将軍様が京を訪れることだよ。で、その上洛先が二条城」
「はあ…」
浮かない声で、私は答えた。
慶応元年、五月。
私は相も変わらず屯所にお世話になっていた。
もちろん元の時代に帰る手掛かりなんか見つからず、巡察では重い刀をぶら下げてみんなの後ろを歩く係も板についてきた。
と言っても、私が巡察に行くのは数回に一回くらいの割合なんだけれど。
で、彼の部屋で洗濯物を畳んでいる折に、将軍様が上洛するという話題を振られたわけなのだが。
「それってすごいことなんですか?」
私にはいまいち将軍という位がわからない。
天皇ならわかるんだけど、将軍とは別にいるらしいし。
私が率直な疑問を口にすると彼が苦笑して、たぶんね、と言うから凄いことなんだろう。
「でも」
「ん?」
「沖田さんは参加するんですか?」
「さあね」
…彼は、良くない咳が続いている。
もしかしたら今回の警護の仕事も、お休みになるかも知れない。
「君は、行きたい?」
「いえ、全然」
残念ながら偉い人を見たいとか守りたいとかお役に立ちたいとか、そういうミーハーな精神は持ち合わせていない。
「だよね」
「はい」
……この老夫婦みたいな会話は如何なものだろうか。
その日、近藤さんから正式に発表があって、土方さんの申し出でやはり沖田さんは警護を休むように言われた。
そして、平助君も体調が良くないとかでお休みするらしい。
久しぶりの同じ面子でのお留守番だ。
私たちは三人仲良く勝手場に立つ。
「春ちゃん、今夜の夕餉は奮発しちゃおうよ」
沖田さんは何処から見つけたのか、はたまた誰が買ってきたのかアサリをごろごろと台に転がす。
「いやいや奮発って…そういうのは凱旋のときにやるべきじゃ」
「ダメだなぁ春ちゃんは。こういうのは皆がいないうちにやるのが良いんだよ」
「あ、オレもさんせーい!!っつーワケで春、今日の吸い物はアサリだな!!」
「平助君まで…」
「んじゃ、満場一致で」
…満場じゃないよ沖田さん。
とまあ、早速茹でている私もどうかと思うが。
そんなこんなでお夕飯を作って食べ終えた私たちは、金比羅船々なんていうゲームを教えてもらいながら楽しく遊んでから、またいつかの様に縁側に並んで腰掛けた。
空が、大きい。
また私は思った。
大きな空と小さな空は、どっちが幸せなんだろう、なんて。
そんなときに、ふと平助君が口を開く。
「なんかさぁ…一君、変わったよな」