秘密
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夢を見た。
春が背を向けて去ってゆく、夢。
待て、と言おうとして俺は口籠る。
止める理由がないのだ。
春。
春、まだ。
もう少しだけ、傍に――――
「はい」
目を開けると小首を傾げて、春が俺の顔を覗き込んでいた。
「っ…!!」
余りにも驚いて、俺は声を上げそうになった。
その様子を怪訝そうに春は見ている。
「どうしました?ずっと私のこと呼んでましたが」
「いや………他には何か言っていたか?」
「いいえ」
ぶんぶんと、春は首を振る。
こいつは目を見れば、嘘か本当かすぐにわかる。
そういう目は嫌いじゃない。
「…はあ」
俺はまた溜め息を吐いた。
幾分熱も下がっているようだ。
春はこれまた慣れた手付きで梨を剥いていた。
「…梨、か」
「風邪には果物がいいんですよ、ビタミンCが」
「びたみん…?」
「身体にいいものです」
くすっと笑うと、春はその一欠片を―――
「じ、自分で食べられるっ!」
俺の口に差し出した。
「いいから」
子供に言い聞かせるような口調で言われ、俺は顔が熱くなるのを感じつつ薄く口を開く。
しゃりしゃり。
甘い欠片が口の中に広がり、水分が染み出す。
「……美味いな」
気恥ずかしさを感て視線をさ迷わせながら、俺は呟いた。
「…お前の時代にも、梨はあるのか」
俺の問いに、春は大きく頷く。
「大好きですよ、私も」
そうか、と返して、俺はまた一口、差し出した梨を囓った。
もうひとかけ食べますか、との問いに首を振って答えると、しんと静けさが辺りを包んだ。
障子の外は暗いようだ。随分長いこと眠ってしまっていたらしい。
だが、俺はまたもや睡魔に襲われていた。
「……春」
「はい」
「……手を、握ってくれないか」
かあっと俺の顔も春の顔も赤くなるのがわかった。
呑まれた息の音が余計に恥ずかしさを増して、俺はやはりいいと言おうと口を開く。
だがそれより先に、手に柔らかい感触が降ってきた。
「…起きるまで、こうしています」
ああ、お前は俺が眠っている間も寝ていないのだったな。
それでもこうして、尽力してくれる彼女に、今日だけは甘えてみることにした。
伝染ったら、俺が一日中ついていてやるのだから。
俺だけの、役目なのだから。