秘密
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齊藤さんが、無事に帰ってきた。
それはいい。それはいいんだけど。
「美味しそうな名前」
そう言って俺を送り出し、
「斎藤さん」
と駆け寄って迎えてくれた春が―――
何を考えているのかわからない。
「…馬鹿なんですか?」
いやに凛々しい顔をした春に、俺はじとりと睨めつけられた。
「馬鹿なのに風邪ひくんですか?」
「っ…」
何か言い返そうとするが、上手い言葉が出てこない。
何故こいつには気付かれたのか、わからなかった。
朝餉の時も普段とさして変わらず、誰も俺の気怠さになど気付かなかったというのに。
何年も共にいる戦友よりも春が気付くとは、一体どういった次第だろうか。
「おふとん」
それだけ言うと、春はくるりと背を向けて畳んである俺の布団を再び敷き始めた。
「…ほら」
慣れた手付きでそれを終わらせると、俺を見遣る。
「いいですか、私これから土方さんに言って来ますから。帰ってくるまでに寝てなかったら怒りますよ」
こういう時だけは、春は一歩も譲らない。それはつい最近になって知ったことだった。
「だが、隊務が」
「馬鹿ぁ!」
ぴしゃりと言い放った言葉とは裏腹に、伸びてきた手は優しく額に触れる。
「こんなにあっちぃのに何言ってるんですか!!」
それじゃ、と肩で風を切って、春は俺の部屋を出ていく。
ふう、と熱の籠った溜め息を吐いて、俺はその布団に渋々横たわった。
…面目が立たない。
少し目を閉じていると、すぐにとてとてという足音が響いて俺の部屋に入ってくる。
「オッケーです、斎藤さん」
春の異国の言葉も、だんだん理解してしまえる自分が可笑しい。
解るのは俺だけの、暗号のようだ。
春はよいしょっと言いながら俺の枕元に盥を置き、手拭いを浸すと俺の額に乗せた。
ひんやりとした感触が心地いい。
「…もういい、お前は自分の仕事をしろ」
俺は雑務を請け負っている春のことを気遣い言った。
の、だが。
「いや、してますよ仕事」
「…?」
「私は斎藤さんのお世話係ですから」
ああ、成る程。
いやしかし、こんな時だけ小姓ぶるのは如何なものか。
「………あんまり色々考えてると休めませんよ」
俺の思考を見透かす様に、春は鋭い目をしてそう告げる。
「だが…お前にも伝染るやもしれん」
「その時はその時です」
……何だ、その理論は。
「とにかく!今日はゆっくり休むこと!瀕死で仕事するより早く回復した方がよっぽど良いです!」
「…そう、だな」
思わず口許が弛む。
俺は。
「少し…眠る」
何故こいつの横なら、安心して目を閉じられるのだろうか。