秘密
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「はまぐりごもん」
「ああ」
「美味しそうな名前」
そんなやり取りで、私たちは別れた。
秘密
あれから、わかったこと。
それは、『鬼』という存在が新選組に対抗する勢力にあるということだった。
風間千景、
天霧久寿、
不知火匡。
幹部相手に大打撃を与えた存在は、あまりにも不安の種に成り代わって。
はあ、と中庭の縁側に腰を下ろし溜め息をついた。
夏の暑さの真っ只中、この夜の涼しさだけが助けのようで、私は毎晩こうして空を見上げている。
膝の上には私の悩みの種である、刀が置かれていた。
「重いからいらないです」
「何を言っている。万が一の時に役に立つ、持っておけ」
「やだあああ」
「…それ以上言うと斬る」
こんな具合で斎藤さんに半ば無理矢理買って渡された刀だ。
重いっつーの。
斎藤さんたちは今頃はまぐりごもんというところに着いたんだろうか。
たぶんあの人なら大丈夫だろうし、私が居ても邪魔にしかならないし危険だし、池田屋で怪我人扱いされた私はぬくぬくと屯所に残ることに成功した。
何かあればこの前みたいに山崎さん辺りが教えに来るだろう。
大体、こんなときじゃなきゃあの喧騒から離れられない。
私はここぞとばかりに休養することにした。
すると。
「春ちゃん」
「げ、沖田…さん」
「げって何かな?」
「な、何でもないです」
沖田さんは何かを手に持っていた。
「葡萄。食べる?」
私が頷くと、沖田さんは半分に切った房を渡してくれた。
「…酸っぱ!」
「まあ、ちょっとだけね」
だけど葡萄なんて久しぶりだ。
私は懐紙を出して種を取り除きながら、葡萄の小さな粒を頬張った。
「あのさ」
「はい」
「君のいた国でも、葡萄って食べるの?」
ぶ、と吹き出しそうになった。
「なっ…どうしてそれを…!?」
「あれ」
当たりだったか、と沖田総司は呟いた。
まさか…。
「……カマかけました?」
「うん」
…にっこり笑ってこいつはとんでもないことを言う。
「で、どうなの」
「……食べますよ、これよりもっと美味しいのばっかり」
言ってみて、私はきゅっと胸が痛くなった。
沖田さんは行儀悪く私の横に寝転んで葡萄を摘んでいる。
「へえ…もっと色々聞きたいな」
未来の話じゃない。
私のいた、どこかの国の話。
「じゃあさ」
悪戯っぽい目が私を見上げた。
「一君みたいなのが、春ちゃんの国でもモテるの?」
ぶふっ、と私は二度目の吹き出しをした。
「もっ…モテるって…」
半笑いで繰り返してから、ふと私も真剣に考える。
「うーん…一般的には、土方さんや原田さんみたいなのがモテますね」
「へえ……やっぱり顔?」
「はい、それと背も高いし…沖田さんもめちゃめちゃモテると思いますよ」
「僕はそんなに美青年ではないけど」
「…沖田さん、鏡見たことあります?」
あんたは十分美青年だよ、沖田総司。
流石にそこまでは言わなかったが、沖田さんは当たり前だよ、と言ってくすくす笑った。
「あと、性格もモテる理由ですかね」
ふーん、といつになく面白そうに彼は聞き入っている。
「土方さんは典型的なイイ男ですねー。んで、原田さんはお兄さんタイプ」
「…たいぷ?」
「あ、んーと…気質?…違うかな、属性?」
よくわかんないよ、と言われ私たちは二人で笑う。
「それで沖田さんみたいなのは『S』っていうんです」
「えす?」
「まあ簡単に言うといじめっ子ですね」
「ああ…それってモテるの?」
何を言うか沖田総司。
あんたみたいなのが一番モテるよ、私のいた時代では。
私は無言でこくこく頷く。
「総合的に言ったら…やっぱり原田さんか沖田さんが一番なのかなぁ」
へえ、意外、と沖田さんは他人事のように目を丸くした。
「…あとは?」
「あとは…永倉さんは、お兄さんタイプなんだけど恋愛対象にならない感じかなあ」
「ははっ、新八さんらしいや」
まさしく今も昔も変わらぬ新八っつぁんだ。
「で、平助くんは弟タイプ」
「それはどんなの?」
「こう…年上にモテるっていうか、可愛がりたくなる感じです」
ほうほう。
言いながら、沖田さんは葡萄を摘む。
「…で?」
「はい?」
「一君はどうなのさ」