舞姫
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病人以外みな出払ってしまった屯所は、やけに静かだった。
夜も遅い。
私も自室に戻ろうか――そう思い始めたときだった。
「山南総長。奴らの会合場所が、池田屋と判明致しました」
駆け込んできた山崎さん。
私は驚くでもなく、複雑な気持ちに襲われる。
やっぱり教えた方がよかったんじゃないか。沖田さんや近藤さんは、大丈夫だろうか。
しかしそんな私を尻目に、山南さんと山崎さんは何やら話し合っていて―――
「では行くぞ、百瀬君!」
「……って、え!?どこに!?」
「百瀬君、人の話はしっかり聞いていないといけませんよ」
「ちょ、山南さん!?」
「走れ!!」
な、
なんなのこの扱い。
草履もきっちり履けないままに、私は山崎さんに引っ張られていった。
「やっ、山崎さんってばぁ…っ!」
気づけば暗い京の街中に駆り出されていた私は、とりあえず流されるまま走る。
「四国屋は真っ直ぐ走ればじきに着く!決して止まるな!」
「もう……っ」
誰も人の話を聞かないんだから、この時代の人は…!
私も聞いていなかったけど…!
「ああーもう!草履走りづらい!」
「静かに走れ、百瀬君!」
「そういう山崎さんもうるさいですよ!」
「何っ…!」
何故だか喧嘩しながら、私達はひっそりとした京の大通りを駆け抜ける。
「しかし君、女なのに速いな…!」
「他が運動しなさすぎなんです!」
どたばた、随分走った気がする。
そろそろ着いてもいいんじゃないか、ちょっと苦しくなってきたぞ―――そう思った、次の十字路。
「っ…!」
「きゃっ……!」
ぎぃん、と鈍い音がして、横を走っていた山崎さんが突然消えた。
何が起こったのか、全く理解が追い付かない。
「走れ!本命は池田屋だと土方さんに……っ」
それっきり、遠く聞こえなくなる声。
視界の端で、恐らく誰かと対峙しているであろう山崎さんがちらりと見えた。
私は言われるまま、通りを突っ切った。
あと少し。
多分あと少しで、四国屋ってとこに着ける。
流されるまま死に物狂いで駆けた私は、ようやく見えた水色の服にもう立てなくなりそうなほど安心した。
そして、力が抜ける。
どさりと膝をつけば、皆がばっと振り返った。
「山崎さんが…本命は池田屋っ、て、皆に……!」
どうにかそれだけ告げて、あとは荒い息に消える。
「お前…春…!?」
土方さんが身体を強張らせる。
驚いたのも束の間、彼はすぐに緊張した声で指示を出す。
すぐにざわざわと、慌ただしく隊列は動き始めた。
ご苦労だったな、と頭の上に降る声と、私を通りすぎる足音。
それに続いた人の足が、ふと私の横で止まる。
確かめるまでもない、
「……無事か」
「…大丈夫、です」
走ったぐらいで死ぬわけでもなし。
膝についた砂を払って、私は今やお決まりの場所である彼の横を歩く。
「山南さんも山崎さんも…絶対許さないんだから……っ」
「……元気だな」
ぶつくさと独りごちる私を、斎藤さんは静かに笑った。