舞姫
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「いっ、池…」
今日はなんだかばたばたと、皆騒がしい。
舞姫
「いけ…っ」
「……落ち着け」
平助君から予想外の単語を耳にした私の口は、なんとか閉じた。
冷ややかな斎藤さんの声が指摘すると、平助君は笑う。
「ほんっと、春って変な奴だよなー。あ、もしかして行くとしたら池田屋のがいいのか?オレは外れっぽくて退屈なんだけど、お前がいたら楽しいかもな!でも残念、まさかお前まで駆り出される心配ねえよ!」
「そうだな、では我々は用があるので失礼する。春、こっちへ来い」
屈託なくぺらぺらと喋る平助君をあっさりと切り捨て、斎藤さんは尚も口の閉じない私を引っ張って広間を出た。
「……っ」
「…………落ち着け」
再び、今度はかなり厳しめの口調で斎藤さんは言った。
―――池田屋。
それはいくら私でも知っている、
新選組とは切っても切れない名前。
「…知っているのか」
少し閉口した私を、鋭い目線で刺しながら斎藤さんは言った。
「だって、池田屋って……!」
「……」
相変わらず鋭い目で私を見つめる斎藤さん。
わかっている、私は言い淀む。
言わなくて、いいのだろうか。
「……」
言ったほうが、いいのか。
いや正直私は知らないに等しいのだ。
私が知っていることは、時代劇とかの話。
大きな階段を駆け上がった新選組と、迎え撃つ人達との剣舞。
「でも………」
もしかして、新選組は池田屋で倒されてしまっただろうか。
それとも。
―――驚くほど、私は何も知らない。
そもそも、知っていたとしてそんな未来を教えて、私は過去を変えてしまっていいのだろうか。
否、私の言葉などで変わるわけは、ないと思う。
何かを言うより先に胸はきゅっと苦しくなって、それきり口を嗣んでしまった。
不安。
それだけが唾液を苦くする。
どうしたらいい。
何を言ったらいい、何を言ったらいけない、
そもそも言ったところでどうなるのか。
さいとう、はじめさん。
歴史の授業で聞いたことがあったっけ。
あったような、なかったような。
だとすれば目の前にいるこの人はもしかして今夜、
いやそんなことはないと思うけど。
「………いい」
しばらくの沈黙の後、溜め息と共に吐き出されたのは短い言葉だった。
尚も不安なまま、私ははっと斎藤さんを見る。
「何も言うな。大丈夫だ」
「え……?」
斎藤さんは、私にふっと笑い掛ける。
「いい。よく、約束を守ってくれたな」
「斎藤、さん…」
「だが万が一…は無いとも限らん、お前はここにいて自分の身を守ることだけ考えていろ」
びっくりするほど穏やかな表情で、斎藤さんはそう言った。
「あの、でも……!」
颯爽と背を向ける彼に。
私は言う。
「無事に、帰ってきて下さいね…?」
「無論だ」
何の安堵なのか、
安堵の溜め息が口をついた。
私の身の安全は、斎藤さんが面倒を見てくれているお陰でなんとか成り立っているのだ。
斎藤さんがいなかったら、機嫌でも損ねた沖田さんに殺されたりしかねないし。
いやそんなのは後付けの理由でしかない。
ただ私は、
迷いない答えに、胸を撫で下ろした。