うららかなりせば
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「ねえねえ斎藤さん」
私は土方さんに頼まれた書物を斎藤さんに渡すついで、彼の部屋に居座って聞いてみた。
「町にはなにがあるんですか?」
正直なところ、私はこの屯所から一歩も出ていない。
すると素っ気なく斎藤さんは答えた。
「店だ」
「え?もっとこう…遊ぶようなところは?」
そういえば、この時代の人たちは何をして遊んでいるのだろう。
碁をうっていたり、というのは見かけたことがあるけれど、カラオケとかそういうの、無い筈。
「…島原か」
「しまばら?」
斎藤さんの答えを、私は繰り返した。
島原で遊ぶのか、そうか。
「その、島原って楽しいんですか?」
私が問うと、何故か斎藤さんは赤くなった。
「楽しく…ないわけではないが…」
…つまり、楽しいってことね。
私は島原への興味が高まっていた。
「じゃあ今度、島原に行きましょう!!」
斎藤さんが楽しいというところなら、是非行ってみたい。
そう思ったのだけど―――
「なっ、ならん!!」
え。
私は洗濯のことといい島原のことといい、少々このダメ出し男子に苛々していたのかも知れない。
「なんで……」
「っ?」
「なんで斎藤さんはダメダメって言うんですか!?私のこと、そんなに嫌いですか!?」
ちくしょーう。
こうなったら…もう逆ギレしてやる!!
「私もう勝手に洗濯しますから!!あと町にも島原にも今度一人で行っちゃうんだから!!」
私は早口でまくし立てると、袴につんのめりながらも斎藤さんの部屋を後にした。
次の日。
洗濯をする私の元へ、斎藤さんがやって来た。
無視を決め込んでいる私は、俯いて気づかないふりを続ける。
ところが次の一言で、その決心は簡単に揺らいだ。
「春、お前を町に連れていく」
私はがばっと顔を上げた。
「ほっ…本当ですか!?」
斎藤さんは柔らかな微笑を浮かべて頷いた。
「でも、今日はせっかくのお休みじゃ…」
「休みだから、だ」
「…え?」
「巡察に連れていったら危険だが、私用なら問題ない」
わあああ。
なに、斎藤さん優しすぎる。
私は頬の筋肉が弛むのを感じた。
「やった…!!」
「わかったら、すぐに襷を置いてこい」
こうして私は斎藤さんと町に繰り出すことになった。
何か帰れる手掛かりが見つかるかも、と土方さんに話してくれたらしい。
「…で、島原には」
「行かない」
斎藤さんは即答した。
「……けちー」
「何か言ったか?」
くすっと笑い、彼は柔らかい眼差しで私を見下ろした。
―――この人、いつもこんな顔してればいいのにな。
「代わりに団子を買ってやろう」
「わぁ…!!」
そうして、私たちは短い休息を十分に楽しんだのだった。