忘年会に行こう!
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「んっ…う」
どれくらい経っただろうか。
理性だけは保っておこうと思っていたのだけれど………
「おい、溢すなよ」
「は…い」
飲まされ、飲ませ、皆かなり酔いが回っているようだった。
もちろん私とて例外でなく随分飲まされていた。
お酌をする手も覚束ない。
何だってこんな色気ばんだ声になってしまうのだろうか。
困惑しつつも土方部長にお酒を注いでいた、そのときだった。
「……春」
不意に掛けられた声に胸がきゅっとなる。
弾かれたように顔を上げると、そこには半分ほど空になったグラスを持つ―――原田さん。
ああ、嫌われちゃったかもしれない。
そんなことを思いながら、私は立ち上がって彼の隣に向かう。
気づかれないように、そっと。
だって貴方は気付いていない、私のどうしようもないちっぽけな想いに。
「……ちゃんと、飲んで下さい」
震える小さな声で言うと、彼は残っているお酒をぐっと呷った。
白い喉が鳴る、その一瞬に目が釘付けになる。
「……はらだ、さん」
がやがやとした喧騒、彼の耳に口を近付けるには充分。
どくんと心臓が跳ねる。
綺麗な赤髪が目の前で揺れた。
「……お前」
すっ、と私を射る眼光。
頬を撫でられたような不思議な感覚に耐えながら、私は酒瓶を傾けた。
「酔ってんのか?」
貴方ほどではないですと皮肉を言う必要もない。
私の頭はすこしかたむいて、赤い髪がすぐ目の前にあった。
媚は売りたくないけれど、どうか、どうか気付いて。
「……すこし」
答えて、傾ける瓶の口が震える。
そのとき、きんっと軽い音を立てて原田さんの持つグラスが確かに引っ込められた。
「っあ…!」
見る間に作られる水溜まり、ぽたぽたと胡座の膝に垂れる。
「あーあ」
向かいで沖田さんのつまらなそうな声が聞こえた。
「土方さん」
次の瞬間、私の腰を温かいものが引き寄せた。
「こいつ酔っ払っちまってるみたいなんで」
ちっと席外します、
あまりに近い距離で大好きな声が聞こえた。
「立てるか?」
私は頷くのも忘れて。
節くれ立った手が手に重なる感触に、ただ呆然としていた。
好きで好きで、だけど近寄れなかったひと。
その人が私を抱くように、支えて飲み屋の出口を通っていく。
まるで他人事のように、私は原田さんの大きな胸に凭れなからその状況を眺めていた。
「うおっ、寒ぃ」
ふわりと白いダウンコートが身体に掛けられて胸が熱く焼けそうだった。
疎らな車のライトはたぶん一番綺麗な光景。
しっかり繋いだ手は、もはや夢じゃないかと思った。
そんなんだったから、もう嘘なんて吐く必要なくなっちゃったんだ。
「……##NAME1##」
相変わらず五月蝿い心臓の音と混じって、温い息が私の耳を掠める。
「このまま抜け出そうか」
くらり滲むライトから逃げるように目蓋を閉じて、私は頷いた。
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