こんなに好きだから。
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「……それで、沖田さん」
「なに?」
私の先を行く人は、にこにこ顔で私の袖口を握っている。
その袖口の色は―――浅葱色。
「こんなことしていいんでしょうか」
こんなこと、とはつまり、隊服を私なんぞが着込んで京の町中を闊歩していることで。
「役に立ちたいって言ったのは君じゃないの?」
「はあ…」
とは言え………
「大丈夫、君に何かあったら殺しちゃえばいいんだし」
「沖田さん」
「ん?」
「笑えないです」
何かあった前提で話されても……それじゃあ私の身の安全はどっちかと言うと危険寄りではないか。
「嫌ならやめれば?」
「う…」
図星を指されて私は閉口する。
そうだ、斎藤さんに認めてもらうという志の前では、何事も私を止められないと私は確信したのだ。
「……や、ります…」
私が絞り出すように言うと、沖田さんは意味ありげに目を細めて笑った。
「へえ」
つまらなそうでもあり、興味深そうでもある彼の一言は、まるで死刑執行人のようでさえ
ある。
「じゃ、ここで待ってるから行っておいで」
私はその言葉に押されるようにして、一軒の金物屋の暖簾をくぐった。
―――桝屋。
「…御用改めです!」
斎藤さんに見繕ってもらった脇差しがいやに重たい。
でも―――頑張らなきゃ。
「そうそう、その調子」
後ろで沖田さんの、のんびりとしてはいるが殺気を孕んだ声が聞こえた。
「おのれ新選組!!あぁあああ!!」
前からは、怒号と―――きらめく白刃。
「春ちゃん、下がって!」
また後ろから、沖田さんの殺気とふわりと動く気配。
振り向く間も無く私は脇差しを引き抜いて、横に構えた―――刹那。
ギィンッ
つんざくような刃物のぶつかり合う音と、手に伝わる信じられないほどの衝撃。
「沖田だ、伏せろ!!」
前からの怒号。
何が起きているのかも全く解らずに、私はただ一心に目の前の白刃を押し留めていた。
だが―――
「……っ!!」
いくら稽古を積んでいたとは言え、男と女。
私の持つ脇差しはぶるぶると震え、少しずつ圧され始め。
「春ちゃん!!」
白刃が後ろから私の肩を掠めると同時、私の腕に鋭い熱が走った。
あまりの出来事、視界がぐにゃりと歪む。
そして聞こえたのは―――
「春!!」
愛しい人の声だった。
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