キスミベイベ
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「………んあ?」
私は素早くシャープペンを引っ込める。
一本取れるところだったのに邪魔されてしまった、無念。
そして原田先生の視線を追って私は振り返る。
「…ああ」
その顔には見覚えがあった。
まあ三年間も過ごせば同じ学年の人の顔くらいはわかるもんだ。
その子は派手な集団にいる一人だった。
「……あの」
かわいらしい口が開く。
「原田先生、ちょっといいですか」
―――またか。
「んあ?」
相変わらず間抜けな声を出して、原田先生は私とその子を見比べた。
そして何か悟ったのだろう、私に視線を投げ掛けてくる。
「ちょっと外してもいいか」というその視線に「いいよ、行ってくれば」と言葉で返すと、原田先生は席を立った。
そのまま立ち竦んでいる女子と一緒に、静かに教室を出ていく。
ああいうの何て言うんだろう、宝の持ち腐れ?はたまたフェロモンの無駄遣い?
とにかく原田先生はモテたし、この時期ともなると三年女子からのアタックがハンパない。
私は遠ざかっていく足音を聞きながら、ああ何処で告白するのかなあ、と野暮なことを考えた。
そして、ノートにシャープペンを走らせる。
………もしかしてこれ、一人でやった方が捗るんじゃないの?
帰ってきたら言ってやろう。居眠りしてたことを理由に。
そうしてしばらく経った頃、ガラガラと聞くからにダルそうな音を立ててドアが再び開いた。
「……うわあ」
私はその姿を見て遠慮なくドン引きの声を上げた。
「なぁに引いてんだよ。俺はなんもしてねえ」
いや、聞いてないけど……それよりもそのワイシャツについた涙、どうにかしてほしい訳で。
「ほい」
私はバッグからハンカチを取り出して原田先生に貸してやった。
「洗濯して返してね」
「一言余計だ」
なに言ってるの、この一言がなくちゃ私じゃない。
さて、補習を回避しようと私は真面目な顔で原田先生に向き直った。
「原田先生、私思ったんですが」
「ダメだ」
「……まだ何も言ってないのに」
「お前の考えてることなんてお見通しなんだよ」
―――しくじった。
はあ、と溜め息を吐くと私の頭に大きな手が乗せられた。
「さっきは悪かったよ。さて、続きやるか」
「……はいはい」
私はまたノートにシャープペンを走らせる。
「………ねえ、原田せんせ?」
「ん?」
「またフッちゃったの?」
「…ばーか。余計なこと考えてねえでエンピツ動かせ」
ふっと見せたその笑顔は、あんまり嫌いじゃないかもしれない。
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