水蜜桃
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「春ちゃん」
「うわっ!?」
彼は突然背中から抱き着いてきた。
相変わらず気配を消すのが上手い、でかい成りをしているくせに。
もうちょっと色気のある声を上げなよ、大きなお世話です、と言い合いをして、私たちは二人同時に吹き出した。
水蜜桃
「で、それ何?」
「桃ですよ」
沖田さんは私の手元を真上から覗き込んで訊く。
私の手には、真っ白な桃がひとつ。
まさしく桃色の皮を剥き終わって、切り分ける最中だ。
「味見」
沖田さんはそれだけ言うと、微動だにしなかった。
彼の両手は私の鳩尾の辺りで組まれているから、ひょいと取ることもしないのだ。
私は小さく溜め息を吐いて、いや溜め息と言っても可愛らしいこの我が儘への溜め息なのだけど、桃の一片を真上へ運んだ。
「ほい」
「…だからもうちょっと色気のある声を出しなって」
沖田さんは苦笑しながら、ぱくりとその欠片を口に含んだ。
「……どうですか?」
あんまり無反応なので、私は訊いてみた。
すると彼は、んー、と浮かない返事を返す。
「え?だってこれ、結構値が張りましたよ?美味しくないわけが―――」
「じゃあ君も食べてみなよ」
沖田さんが言うので、私はう、と口籠る。
皆が食べる前に私が食べていいのだろうか。
いやでも不味い桃を出すのも忍びない。
それじゃあ、と私は意を決して桃を一欠片摘んだ―――
が。
「ほい」
沖田さんの手がそれを制して私の手から桃を奪い、私の口許に運んだ。
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