ギブミースマイル。
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「―――何だって?」
朝飯時になって告げられた言葉に、原田だけではない、幹部連中のほとんどがぴたりと箸を止めた。
「……聞こえなかったのか?あいつは江戸に帰った」
僅かに眉をひそめ、土方は不機嫌に繰り返す。
「…っじょ、冗談言うなって土方さん!!笑えねーよ!!」
「冗談だと思うなら屯所中探してみろ」
場を取り成すような平助のおどけた声が、虚しく切り捨てられる。
しん、と水を打ったように広間が静まり返った。
「………なんでだよ」
土方に苛立ちをぶつけるのは間違いだと、わかっている。
それでも、止められなかった。
「あいつが江戸に帰るわけねえだろ!?」
土方は苛立たしげに原田を睨み付ける。
「慶喜公の命令でも、帰らねえって言えるのか」
はっと、冷水を浴びせられたように息が止まった。
―――そう、つい先日、家茂公が亡くなったのだ。
もう、誰にも何も言える言葉はなかった。
春が屯所に居たのは、京に身を置く慶喜公からの『小姓として身元を預かって欲しい』との申し付けがあってのこと。
何年経てども彼女は「預り」であって、「隊士」ではない。
そして慶喜公と関わりがある春が、家茂公の逝去には関わりがないとは決して言えなかった。
それでも。
原田は広間を飛び出し、春の部屋に向かわずにはいられなかった。
声を掛けなかったのは―――もう、応える声がないことが解っていたから。
「…ふざけんなよ…」
がらんとした、それでいて手付かずの小間物や香の残った部屋。
文机の上には、一枚の文もなかった。