君の隣で。
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春が目覚めたのは、夕飯時のこと。
「ん…」
ぼやけた思考を辿るように目をこすると、そこには先刻と全く変わらぬ佇まいで斎藤が見下ろしていた。
「わっ、す…すみません斎藤さんっ!!私、眠っちゃって…」
「何を謝る」
「え?」
「休めと言っただろう。これくらい何でもない」
ふわりと笑って斎藤は言った。
少しの間と言えど正座を続けていた彼の根気強さに感心してしまう。
「ありがとう、ございました」
なんだか急に恥ずかしくなり、春は飛び起きた。
「…さて、夕餉が出来ている」
今日の炊事当番の人が置いていったのだろう、部屋の襖の外には二人分の膳が置いてあった。
斎藤はそれを右手の利かない春の前と自分の前に据える。
「頂きます」
春が手を合わせると斎藤もそれに倣い。
「あ」
春は箸を持とうとして、自分の利き手が使えないことにようやく気づいた。
だが斎藤はそれも解っていたのか、特に驚いた風もなく春の膳の料理を摘み、それを―――
「……どうした?口を開け」
当然のように春の口許へ運んだ。
「あの…」
もじもじと視線を逸らしながら、春は小さな声で言った。
「恥ずかしい、んですけど……」
だが斎藤にはそれが伝わらないらしい、依然煮物を摘んだ箸を向けて小首を傾げる。
「……何がだ?」
「いえ……」
この調子だとわかりそうもない、
春はどうにか口を開いてその箸先を咥える。
するて、びくりと斎藤の身体が跳ねた。
「…斎藤さん?」
「な、成る程…なかなか、気恥ずかしいな…」
言いながら、誤魔化すように自分の膳をつつく。
そして再び春の膳から飯を取ってやり―――
「あ」
そこで、所謂間接キスをしていることに気づいて赤面した。
「す、すまない…っ!お前の箸を貸せ…!」
「あ、あの!」
斎藤が照れるものだから春も恥ずかしくなってしまい、どもりながら口を開いた。
「そのままが…いいです…」
今日くらいしか、できないのだから。
そう言うと、斎藤は手を震わせながらも春の口許に飯を運んだ。
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