愛妻家の煩悩
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「な………」
「………」
「なぁんだってええええ!!?」
新八のどでかい声が消えてから、広間は水を打ったようにしーんと静まり返る。
「…はは、何言ってんだよ左之さん……ふざけ…すぎだぜ……」
「平助、さり気なく刀に手ぇ遣るな」
あまりの衝撃に、平助は少しばかりおかしくなっちまったようだ。
「へえ…で、命の覚悟は出来てるんだろうね、左之さん」
「総司、お前も手ぇ遣るな」
「ふん…世迷い言はそれで終わりか。春、動くな」
「斎藤もかよ…」
こんなに祝福されねえ結婚なんてあんのか?
そもそも俺、殺されそうだし…。
「……土方さん、頼むよ」
俺は自力でどうこうするのを諦めて、土方さんに援軍を頼んだ。
本当は嫁さんの手前、自分でどうにかしたかったんだが。
「ああ―――」
土方さんがそれに応えて口を開いた、その時だった。
「私から、説明します」
なんとそれまで俺の腕の中でおろおろとしていた春が、凛とした声で名乗りを上げたのだ。
「私、原田さんと祝言を挙げることにしました」
おお…嫁さん、素晴らしいぜ…。
いつもはびびってばっかりの春が、この時こそはと姿勢を正して告げる。
「不束者ですが、皆さんにお許しを頂きたく思います。どうか、お願いします!」
おう、そうだ春。
―――って…
この台詞、普通俺が言うんじゃねえか?
俺は慌てて隣に倣い姿勢を正すと。
この俺を、ここまでさせる女が愛しい。
「春と、結婚させて下さい」
頭をこれでもかと下げてやった。
「……っつー訳だ。彼女には住まいやらが整うまで此処に居て貰うが、わかったなてめえら」
土方さんの最後の一声で、皆はようやくそれが事実と相違ないことを認めたらしい。
「いやぁ、目出度いぞ!!よし、酒を持ってきてくれ!!今夜は宴だ!!」
近藤さん、よくぞ言ってくれた。
こうして俺たちは、ほんの少しの祝福と大半の懐疑に送られることになった。
散々呑まされ、春も呑まされ、あわや乱闘にもなりかけたりと色々大変だったが。
「―――すまねえな、こんな祝言で」
やっと褥に入っても明らかに殺気に包まれている。
腕のなかにすっぽりと春を抱いて眠るのが精一杯だった。
「いいえ、幸せです、皆さんに祝って頂けて…」
春は眠そうな声で答える。
俺はその額に口づけると、
「……ありがとな」
そう呟いて目蓋を閉じた。
ありがとう、それ以外に言う言葉はない。
俺の傍にいてくれて、俺の為に頑張ってくれて、俺の為に笑ってくれて―――。
この時は、あいつらがどれほど春を好きかわかっていなかった―――。
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