乳白色に紛れ
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それは白い雪降る早朝のこと。
困ったものだ、と思った。
暫く桜や紅葉、雪などを愛でることなど忘れていたが、春が来てからというもの厭でもそれに目を向けさせられる。
俺は羽織を仕度して彼女の足音を待った。
ぱたぱた、と小気味のよい足音が寸分も待たずに聞こえてくる。
「斎藤さん、斎藤さん」
「ああ、居る」
「雪です!!」
興奮の為か寒さの為か頬を紅潮させた春が襖を開けるなり叫んだ。
「…知っている」
否、意地悪をするつもりではないのだが、取り敢えず答える。
春は素っ気ない俺の返事にもたじろぎもせず、俺に駆け寄った。
「早くしないと、誰かに負けちゃいます!」
―――何と要領を獲ない言葉か。
この言葉は流石に想像していなかった。
「……何を、負けるのだ」
今にも走り出したいという雰囲気の春に訊いてみると、これは大変なのだと云わんばかりの目で俺を覗き込んだ。
「…先に、足跡をつけられちゃうでしょう?」
「駄目なのか」
「駄目です!!」
熱く言う春を見ていると、思わず笑みが溢れる。
「さあ、遊びましょう!!」
遊びには適した人物が他にいるだろうに、彼女が俺の元に一番に来たことはやはり感慨深い。
「だが…何をして遊ぶのだ」
「それは、行ってから考えればいいんです!!」
此れではもう何も言えまい。
俺は苦笑すると羽織を肩に掛け、春にしっかりと手を掴まれ玄関へと歩いていった。
乳白色に紛れ
「斎藤さん、やりました!」
一番に雪に足跡をつけるという目標を達した春は、歩き辛さを誤魔化すように笑って見せた。
思った以上に深く積もっていたらしい、男の足ならばいざ知らず、いくら袴でも女が歩くのは難儀に見える。
「……ほら」
今度は俺から彼女の手を取り、歩き出す。
成る程、誰も踏んでいない雪を踏むというのは中々楽しいことであった。
―――と。
「っあ、斎藤さ―――きゃっ!!」
ぼふん、と背後で派手な音がしたと思うや否や、俺の手は後ろにぐいと引っ張られ、雪の中に尻餅をつく格好で座り込んでしまっていた。
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