はじめくん、がんばる。
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「春っ…!!」
斎藤が帰ってきて真っ直ぐに彼女の部屋に向かったのは、既に空が朱に染まる頃だった。
「…なんですか」
驚いたように目を丸くしてから、ふい、と部屋の主はそれを逸らす。
だが斎藤は、構わず彼女の傍に寄った。
怒っている。
しかし言葉が彼女の口を突くより先に、斎藤は膝をつき姿勢を正して正面に座った。
「…春」
「………はい」
その改まった雰囲気に、春もなんとなく姿勢を正した。
「お前が好きだ。」
斎藤はきっぱりと言うと、手に持ったそれを春に差し出した。
「受け取ってくれ」
そこには、一本の簪。
季節外れの品ゆえに、売っている店を探すのに随分時間がかかったが。
桜をあしらった、粋な細工のものだった。
「そんな…そんな高そうなもの、貰えません!」
春は今度こそは心底怒ったような顔をしていた。
「それに私はっ…!!」
だが、二の句を継ごうとした口を斎藤の言葉が遮る。
「俺には」
ちらり、本に挟まった和紙の端が目に留まる。
「それが何故大事なのかはわからん」
ぎゅ、と袴を握り締める春の頬は、まさしく大事なものを馬鹿にされた子供のように紅くなっていた。
「だが…大事な、ものなのだな?」
こくっ。
頷く様も子供のようだ。
「すまなかった。―――が、それだと失くしてしまい兼ねない」
ふわり、と斎藤は微笑んだ。
「こちらの方が、失くすことも無かろう」
はっ、と春は顔を上げた。
「だから、頼む。俺から離れて行かないでくれ…」
勢い余って、気がつくと斎藤は春をしっかりと抱き締めていた。
ぱちぱちと瞬いて、春はその状況を理解するとそっと斎藤の背を抱き返した。
「斎藤さんの、」
むっつりすけべ。
彼女は幸せそうに呟いた。
*end