はじめくん、がんばる。
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『春ちゃんは、女の子なんだよ』
沖田の言葉がぐるぐると頭を巡る。
そしてちらりと横を見遣ると、黙って―――未だ膨れているように見える―――春が菜物を摘んでいた。
何とも居心地の悪い食卓だ。
土方は何処と無く苛ついているように見えるし、藤堂はいつもの元気は何処へやら唇を引き結んで菜をつついているし、沖田は相変わらずにやにやとしているし、原田は知った顔で飄々としている。
そんなんだから、
「ごちそうさまでした」という春の声にすらびくっと肩をすくませてしまった。
にやり、と沖田が意味深な視線を投げ掛ける。
「お茶は如何致しますか」
つい先刻、この口があんな大声を上げたとは思えないほどの落ち着きぶりだ。
なかったことにしよう、というのだろうか。
「ああ、頼む」
「っと、悪いが俺はいいや。これから巡察なんでな」
はい、はいと答えながら、春はてきぱきと皆の皿を重ねて盆に載せる。
そして―――気がつくと斎藤の卓の前に、春の顔があった。
言葉を発するのも忘れて、斎藤は思わず噎せ返る。
その様子に顔も上げずに皿を片付けると、
「…今お持ちします」
とだけ告げて春は颯爽と立ち上がった。
「あ、春ちゃん、盆なら僕が持っていくよ。重いだろうから」
――――総司。
斎藤は心の中で呟き、沖田はそれが聞こえたかのように笑顔で斎藤を一瞥した。
はっ…!!
その目に先程の『女の子なんだよ』という言葉を思い出されて、斎藤は顔を上げた。
「で、では俺が茶を―――!!」
「お茶くらい、私一人でも持てますから」
咄嗟に出た言葉は、氷のような一言に一閃された。
振り返ることなく軽い盆を重ねて去っていく春。
そんな彼女と息もぴったりに残りの皿を片付けるふりをしながら、沖田が囁いた。
「一君さ、もたもたしてると春ちゃんは僕が貰っちゃうよ?」
冷水を浴びせられたように、斎藤は硬直した。
沖田の目は―――笑っていなかった。