君を泣かせる権利。
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久しぶりの浴衣は、やはり嬉しくて仕方ないものだった。
それも、原田が「絶対似合う」と太鼓判を押してくれた逸品だ。
浴衣の帯をきゅっと結ぶと、腕組みをして壁に凭れ掛かる原田のもとへ駆ける。
「原田さん!!」
夕闇に紛れれば、人の視線もさほど気にならない。
すっ、と伸ばされた手を当然のように繋げる。
「…お祭りなんて、すごく久しぶりです」
「だな。今日ばかりは何も考えなくていい」
一旦大通りに出れば、そこは人でごった返していた。
「こりゃすげえな…」
何処もかしこも軒先に提灯を吊し、ぼんやりと照らされた町は活気に溢れている。
「離れるんじゃねーぞ」
「…はい」
繋いでいる手に力がこもる。
「…さて、何処から廻ろうか」
―――それから。
「…たまには良いですね、こういうのも」
すっかり店仕舞いが終わった頃、二人は人通りのない河原で向かい合ってしゃがんでいた。
ぱち、ぱちぱちっ。
出店で買った線香花火が静かに光の穂を放つ。
「―――春」
じゅっ、と音を立てて火種が落ちた頃、原田は口を開いた。
「なん……わっ!?」
顔を上げるより先に、厚い胸板が春の身体を抱き締める。
じゅっ、と春の火種も終わりを告げる。
「はらださん、…」
「春」
何やらごそごそと、どうにか結い紐で纏め上げた髪に何かが挿された。
「お前が好きだ」
はっきりと、告げられる言葉。
「俺と、婚姻を結んでくれ」
何が起きたのかわからなかった。
春は線香花火のこよりを掴んだまま、ただ原田の言葉に心を奪われていた。
「戦が終わったらでいい、お前を絶対幸せにしてやる。お前が刀を持たなくていいように、俺は惚れた女を一生懸けて守ってやる」
はらださん、と呟いた声が掻き消えた。
「っく…はらだ、さん…っ」
抑えた嗚咽が小さく震えながら、鼓膜を揺らした。
「はい…っ、私、原田さん、の…お傍に、居たいです…っ!」
原田はその答えを耳にすると、ゆっくりと名残惜しむように身体を離して。
今まで誰も見たことのない透明な涙を、優しく指先に受けた。
「泣くなよ。……俺の前以外では」
こくこく、春は頷く。
お前を泣かせていいのは俺だけだ。他に泣かせる奴がいたら、絶対俺が守ってやる。
*end