君を泣かせる権利。
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「あの、原田さん…どういうことですか…?」
春は困惑しきりといった表情で足取り重く原田の後ろを着いてきた。
それもいつもの袴姿ではない、一着限りの女物の着物姿だ。
「ん?なんでそんな離れて歩いてんだ、もっと近くに来い」
「だってそれじゃ―――」
言い掛けた続きを、町を歩く顔見知りの店主がしっかりと補った。
「おう、原田さんじゃねえか!えらい別嬪さんと逢い引きとは羨ましいねえ!」
「ああ、俺の良いひとだ」
逢い引きという単語と悠々と返す原田の言葉に、春は真っ赤になって俯く。
「は、原田さん…っ!変なこと言わないで下さい!」
「ん?俺は事実しか言ってないが」
町の人々は男も女も振り返る。
二人の立ち姿は、まさに美男美女で人目を引いていた。
「原田さん、皆見てます…やっぱり帰りましょうよ…」
消え入りそうな声で、春は原田の着物の袖を握る。
「そう言うなって。……今日は大事な日なんだ」
「………さっきは隊務だって言ったくせに」
「あれは言葉のあやってもんだ」
春は恨めしそうに原田を睨み付けるが、彼はどこ吹く風といった様子で。
「いいから。…大人しくしてろ」
そうして幾度となく押し問答をした挙げ句、辿り着いたのは。
「反物屋…ですか?」
春は訝しげにその店頭を見遣った。
「ああ、お前浴衣持ってねえだろ?」
「ええ、まぁ…」
「だから仕立てる」
「…訳がわかりません」
私は袴しか履けませんし、と春は言う。
だがそれを制するように、原田は先立ってその反物屋に入っていく。
―――実ならば、女の着物姿が羨ましく思わないでもなかった。
「ですが私、お金を持ってきてません」
「なに言ってんだ、俺が持ってきてるに決まってるだろ」
「そっ…それはだめです!!」
あのなあ、と原田は呆れた素振りをして見せた。
「好きな女に贈り物の一つくらい、させてくれねえか」
また軽く頭に手を乗せて、原田は少し屈んで春の顔を覗き込んだ。
「…もうすぐ夏祭りだ、一緒に行きたい」
春は困ったように目を泳がせて、そして一番の笑顔を見せて「ありがとうございます」と呟いた。