君を泣かせる権利。
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畜生…
どうしたらいいんだ?
君を泣かせる権利。
「……何か、私の顔に付いてますか」
相変わらずなかなかの素っ気ない顔で、彼女はふいと前を向いたまま言った。
……斎藤と張り合うような口数の少なさだ。
前に二人が話しているところを見たが、碁でも打っているような静けさで平気に四半刻くらいはお互い黙っているような雰囲気だった。
そんな彼女に惹かれたのは、本当にちっぽけな事の積み重ねだった。
ふとした時に見せてくれた笑顔だったり、飯時に雷が鳴った時に隣の席にいた原田の袖口をぎゅっと掴んでいたり、夜の巡察から帰れば頃を見計らって火鉢を暖めておいてくれたり。
普段は見せないそんな表情が姿を顕すたび、春が可愛くて仕方がなくなる。
「あ、いや…」
一つ難点があるとすれば、この無愛想な表面だろう。
ただし裏を返せばこの無愛想さが、全く媚びを売らないという彼女の良さでもある。
だが。
「なんつーか、その…お前って、何考えてるかわかんねえ時があるよな」
半分嘘。
実際はほとんどの時、何を考えているかわからない。
「…何も考えていません」
やや躊躇った後、小さく春は呟いた。
有無を言わせないただそれだけの一言に、二の句を告げられなくなる。
こんな調子だからなのか、こんな調子だからこそなのか、隊士連中は春を気に入っている奴がなかなか多い。
口に出さないものの、この美人が笑う顔を皆気に入っているのだろう、懇意に接している。
原田とて言い寄ってくる女は少なくない、けれど春ほど不器用で真っ直ぐな女はいない。
そんな彼女と―――原田はつい先日、恋仲になったというのに。