桜舞う日と君を待つ。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、春ちゃん」
「はいっ?」
不意に沖田が立ち止まった。
「お腹すいたよね?」
……なんと答えるべきか。
思案げな顔をして黙り込む春を見て、沖田は困ったような笑みを浮かべた。
「…僕は単に、お腹が空かないかって聞いてるんだけど」
――何を考えているか、彼には全部筒抜けのようだった。
言われてみれば太陽も傾き始め、街の人たちが各々手近な茶店に入っていく時間のようだ。
「じゃあ、そこのお店でいい?あそこの餡団子、美味しいから」
頷くと、春の手を引いて沖田は一件の茶店へ向かう。
「いただきます…」
「頂きまーす」
火鉢のそばの座席で、二人は手を合わせた。
沖田は先程の言葉通り餡団子を、春は一目見て選んだ小さな雪兎を象った饅頭を、それぞれ手に取る。
「この店の一番は桜餅なんだけどね」
季節外れだからなあ、などと言いながら、沖田は頬を綻ばせながら団子を頬張る。
「……どっちから食べるか悩んでるんでしょ」
「う…」
作り物の雪兎を手に持ったまま止まっている春に、沖田はずばり言った。
「で、結局尻尾から食べる」
「………その通りです」
こうも言い当てられると立つ瀬がないが、春は小さな尻尾を囓り、それから背を向けた兎を味わった。
「美味しい?」
「はい、すっごく。…桜餅も、食べてみたいですね」
「うん。………春が来たら」
彼は不意にそこで言葉を切って、春を見た。
「…君の考えてること、なんでもわかるけど」
「…はい…?」
「いっこだけ、わからないことはあるよ」
困ったように笑って、彼はそれきり黙ってしまった。
「…冷えてきたね」
軒先が白く染まっていくのを見ながら、沖田はぽつりと言った。
「帰ろうか」
「……はい」
これじゃ本当に逢い引きみたいだ、と、彼のお下げの毛先を眺めながら思った。
「…沖田さん」
気付けば足が止まっていた。
「……春も、一緒にいて下さいね」
口を突いて出た言葉の端が、何故か震えた。
彼は振り向くと、
笑った。