桜舞う日と君を待つ。
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京の街中。
しっかりと手を握られて、春は沖田の横を歩いていた。
行き交う人々が物珍しそうに沖田を見ているのは、春が昨夜仕掛けた三つ編みのせいでもある。
そしてそんな男が、女顔の男の手を引いているという端から見れば異様な光景だからだ。
とにかく背の高い男が髪をお下げをして歩いているなんて、およそ不釣り合いなはずだが―――
(意外に、似合ってるんだよね……)
春は横目で沖田を盗み見た。
なんというか、とっても可愛らしい。
普段の髪形ももちろん似合っているとは思うのだが、このままお昼寝でもしたら本当に猫みたいだと思う。
沖田自身も視線など全く気にしない様子で、どことなく上機嫌のように見えた。
しかし、油断してはいけない。
相手はあの意地悪沖田総司なのだ。
春は今に酷い『仕返しの仕返し』をされるのでは、と身構えていた。
しかし。
「君さ、よくあの店見てるよね」
「…え?」
彼は何ら普段と変わりのない、どこか悪戯っぽい目で問いかけてきた。
指差す先には、ひとつの金物屋がある。
「…ああ、はい」
春は曖昧な返事を返した。
そう言えば、時折その店には通っていた。
通って『いた』というのは、今は通っていないから。
「綺麗な簪が、あったので」
あまりに綺麗で、思い出すだけでも少し寂しくなる。
ついこの前、その簪はなくなっていた。
きっと相応しい格好をした、値段に見合った女性のもとに渡ったのだろう。
「ふーん」
興味なさそうに彼は呟くと、ふと振り返って。
「………どうして僕が意地悪するか、知りたい?」
あまりに突然の問いに、春はぱちぱちと瞬いた。
「知りたい、でしょ?」
促され、思い出したように春は頷いた。
そして刹那、唇が開く。
「「教えない」」
二人の声がぴったりと重なった。
一瞬驚いたように目を細め、沖田が感心したように笑う。
「よく、わかったね」
「…それしか、わかりません」
なんだか、彼の笑顔を見ていると胸が切なくなった。
誤魔化すように、春も笑ってみせる。
「解いてみせてね?」
「…はい」
妙な胸のつかえを感じながら、春は答えた。
いつしか、雪が降り始めていた。