ハジメノヒ。
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「斎藤さん斎藤さん」
雪も深まるある日のこと、巡察の最中に突然春は切り出した。
「何だ」
「斎藤さんの欲しいものって、何ですか」
斎藤ははたと歩を止め、春をまじまじと見つめた。
―――何故、そんなことを聞くのだ。
目が口ほどにものを言っている、そんな表情。
しかし普段ならその顔を見せるだけで「ごめんなさい」等と言って頭を下げる筈の春が、この時ばかりは依然答えを待って斎藤の目をじっと見ている。
京の町中で、二人はしばらく―――結構な時間だったかもしれない―――突っ立ったまま、お互いの目を見つめ合っていた。
先に手を上げたのは、斎藤の方だった。
「……ない」
ぽそりと、それだけ呟いた。
あまりの真摯な視線に負けて、ふいと目を逸らす。
「『ない』?」
何故、そんなに食い下がるのか。
だが真剣に考えれば考えるほど、申し訳ないことに何も思い付かない。
なぁんにも、ですか、と尚も問う春に、斎藤は正直に答える。
「ああ、…この刀があれば、それでいい」
「それは」
―――少し、哀しいです、と。
春は苦笑して見せた。
「…かく言うお前は何かあるのか」
なんとなく、斎藤は訊き返す。
すると今度は春が眉根を寄せる番だった。
「…そう言われると、難しいですね」
「……ないのか?」
「はい、…考えつきません」
それもまた意外だ。
年頃の女ならば綺麗な着物や簪など、いくらでもあろうに。
男装をさせているから、だろうか。
「…すまんな」
「いいえ、でも見つかったら教えてくださいね」
そのことに対して謝ったわけではないのだが、約束ですよ、と言われて間違いを正すのも野暮だと思い、斎藤は頷いた。