副作用、恋。
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「春」
わたしが口を開くよりも早く、彼の唇がわたしの名前を呼んだ。
「俺―――」
「待って、」
ああきっともう、
逃げ場なんかないんだ。
「待って」
わたしは原田さんに向き直ると、包装紙もリボンもない箱を差し出して俯いた。
「好きです」
たった、ひとこと。
ぽろりと零れたことばは、あのショーケースの前で書いた文字をなぞる。
下を向いた視線、大きな革靴が踏み出た。
両側に伸びる手のひら、
わたしの手を通り越して、腕、脇、そして。
「―――頂いた」
ぎゅっ、と包まれた、背中。
「っ……て、わっ!?」
わたしはそのまま手を引かれて、いつの間にか給湯室を出ていた。
「ちょっ……原田さん!?」
「ん?なんだ?」
「なんだ、じゃなくって……!」
あわあわとオフィスに連れ戻されると、痛いほどに突き刺さる白い目。
手をほどこうにもしっかりと結ばれていて敵わない。
「う……」
「春」
「はい…?」
「俺は」
ふわり、と何かが頭に触れた。
「お前からの一個があればいい」
すこし背を屈めて、見つめるのはまっすぐな瞳。
繋いだままの手が、確かめるように指を握る。
そうだ、もう、
何度ほどいたって繋がってしまう。
「………わかったな?」
こくり。
頷き返すと、彼はまだ女の子のたむろしている自分のデスクから鞄を掴み、立ち尽くすわたしにコートを被せてもう一度手を繋いだ。
「……そういう事で、帰ります」
「あっ…あの、ごめんなさいっ!」
聞こえる土方さんの諦めたような溜め息。
颯爽と歩き出す原田さんの後ろで、わたしは笑いそうに、泣き出しそうになった。
「さて、と」
くるっと振り向いた彼の胸にすっぽり収まったのは、エレベーターの中。
背後で紙箱が擦れる微かな音がした。
「……なあ、春」
見上げれば、唇が塞がれる。
舌を伝うのは、チョコレートのせいなのか原田さんのせいなのか甘い味。
「ん……」
「………やっぱり、こっちのが美味いな」
もう一度舌を絡ませて、わたしたちは見つめ合うとくすくすと笑った。
「心配したんだからな、お前が他の男にチョコ渡さねぇかって」
「わたしだって、他の人からチョコ貰わないか心配したんですから」
冷たい風の吹く外へ出て、どちらからともなく再び唇を重ねる。
「あー……」
暗くてもわかるくらい、赤くなってるの。
「今すぐ、食っちまいたい」
甘ったるい中毒に犯される、チョコレートの副作用が恋のはじまり。
*end