桜舞う日と君を待つ。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お………」
にやっ、と彼は唇を歪ませた。
「沖田さんのばかーーーーーっ!!!」
桜舞う日に君を待つ。
「せっかく…急いで買ってきたのにっ…!!」
「うんうん」
「温かいの、買ってきたのにっ…!!」
「うん、温かくて美味しいよ」
君も一口食べる?
沖田は能天気に、まだ湯気の立つ食べかけの饅頭を春に向けた。
しかし春はがっくりと肩を落とし、沖田の声など聞こえていないようだった。
「一個しか…残ってなかったのにーーーっ!!」
あ、お茶。
沖田も沖田で春の声など聞こえていないかのように、盆の上の湯飲みも取り上げてずずっと音を立てて啜る。
やがて沖田は饅頭を平らげ、白々しく言った。
「あれ、なんで怒ってるの」
春は物怖じせず、涙目で沖田を睨みつける。
「…沖田さんが、せっかく買ってきたお饅頭を、食べてしまったからです」
「僕のために買ってきてくれたんでしょ?」
「違います!!」
「じゃあ誰のために買ってきたのかな?」
―――勝負あり。
「………違いません」
春はたじろぎ、そして観念したように言った。
あまりの下手な受け流し方に、沖田は思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
そのとき、廊下の向こうで足音が鳴る。
「……ああ、一くん。巡察頑張ってね」
『一くん』という言葉に、彼に背を向けていた春はぴくっと反応する。
―――わかり易い子だ。
大方働き詰めの斎藤を心配して、巡察前に温かい饅頭でもと思って買ってきたのだろう。
斎藤が玄関へ向かうのを見ながら、沖田は些か罪悪感を覚えなくもなかった。
「…ありがとう、春ちゃん。寒かったよね?」
強がりなのか、彼女は首を緩く振った。
「…それじゃあ」
沖田は着物の袂から、和紙の包みを取り出した。
「これあげるから、暖かくして寝なよ?」
包みを訝しげに見る春に「ご馳走さま」と告げると、沖田は自分の部屋へと踵を返した。
―――彼女のために買ってきた饅頭を見て、更に怒るであろう姿を想像しながら。