副作用、恋。
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「お…」
終わらん…。
月の真ん中というのは、締め日が密集したりしてかなり忙しい。
軽く目眩さえ覚えながら、「お先に失礼しまーす」というきゃぴきゃぴした声を聞き流す。
これは残業、確定。
「はぁーぁ…」
コーヒーの残りを飲み干して、わたしは大きく溜め息を吐いた、そのとき。
「大丈夫か、百瀬」
「あっ…」
やばっ、聞かれた。
焦って振り返るとそこには総務課の斎藤さんがいた。
歳も大して違わないのにかなりデキる男らしく、しかもカッコいいからうちの課にもファンがいっぱいいる人だ。
どうやら上がる前に書類を届けに来たらしい、コートに鞄を持って帰り支度を済ませていた。
「すみません」
「謝ることではないだろう。あんたは十分頑張っている」
実際、社会に出ると褒められることなんて滅多にないから、お世辞だとしても彼の気遣いは嬉しかった。
「何か手伝えることはないだろうか?」
「いえっ、そんな…もう少しで終わりにするので、斎藤さんは上がって下さい」
寒いですし、
そう付け加えると斎藤さんは苦笑して「それはあんたも同じだろう」と言うと、不意に鞄の中から取り出した何かをわたしのデスクに置いた。
「…あ」
暖色の缶、『ココア』という文字。
「少し冷めているが、温めて飲むといい」
そして静かに去っていく気配。
「あっ…ありがとうございます!」
わたしは斎藤さんの背中にぺこりと頭を下げた。
心がほかほかする、一人微笑みながらわたしはコーヒーの線が残るカップを手に給湯室に向かった。
うーん、斎藤さんにココアって似合わなそうだけど、意外に甘いものが好きなのかな?
流しにあるスポンジに洗剤を含ませて、カップを洗う。
けれど―――狭い給湯室に入ってきた人影に、水も流しっぱなしでわたしは固まった。
「……原田さん」
見上げる綺麗なまぶた。
認識した瞬間に、急にどきどきと胸が鳴り始める。
「おう」
長い前髪を掻き上げる仕種に見惚れて、それから泡のついた手を差し出す。
「ん、悪ぃな」
原田さんは手に持っている空になったカップをわたしに渡した。
「………」
なぜ、こんな気まずい沈黙?
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