Dear my cake.
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「……全部が全部」
連行されるように車に乗せられ、座った途端に彼はこぼした。
「くだらねえ訳じゃねえよ」
隣で苛々と煙草に火を点ける気配がする。
窓を大きく開けて、冬の風が吹き込んできた。
口許とハンドルを往復すること三回ほど、彼は煙草を揉み消してしまう。
「………」
じっと手元を見つめたまま、わたしは黙る。
「…食わせてみろ」
唐突に、彼は言った。
「え?」
「お前がさっきから大事そうに持ってるそれだよ」
「あの、でもこれは……っ!」
「…んだよ、俺が食っちゃいけねーのか」
「そういう…わけじゃ……」
土方先生は眉根を寄せて言う。
突然指摘されて混乱しながら、わたしは項垂れてそっと箱を手に取った。
少し形が崩れている、小さな四角いチョコレートケーキ。
視線はずっとわたしに注がれていて、おずおずと底のアルミ箔を持ってケーキを取り出す。
「あっ……」
その手を掴まれ、
ぱくり。
「……っ」
土方先生の顔がすぐ目の前にある。
どきどきと心臓が脈打ち、頬に熱が上がる。
目を瞑ってしまいたいけど、わたしの目は彼のくちびるに釘付けになったまま瞬きすらできなかった。
咀嚼して、
また、ぱくり。
指先に吐息が掛かって温かくなり、身体も燃えるように熱くなる。
ほんの三分ほど、それが気が遠くなるほど長く感じられて、ケーキはなくなった。
しかめっ面の土方先生は頬に付いたチョコレートクリームまで親指で拭って舐め取った。
「―――甘いの、お嫌いなんじゃ…」
やっと口を突いて出たのは、そんな言葉だった。
「ああ、嫌いだ」
「じゃあ、なんで―――」
「嫌いだから、一個で十分なんだよ」
ふわり、冷たい手がわたしの指先を握る。
「―――これだけで」
柔らかいキスが、唇を塞いだ。
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